自分で考えろ

まだ来ない?

“おなよう”は?

さあね

探してきてよ

どこをだよ

顔は洗った? 猿じゃないのよ

猿はあんただ

何ですって?

別に

待って

目障りだ

何?

聞こえたろ

 

ヴァディム 相変わらず選挙の心配か 1年先ではないか

“備えあれば憂いなし”

言うまでもなく君は世情に通じているが神を忘れるな

俺がいつ…忘れた?

分かっている 君は最も気前のいい後援者だ 今日は理由があって遠方まで来たのだろう 魚を食べてくれ

そうだとも

何度も言うがあまり気を揉むな 権力は神がもたらす 神が望む限り心配は無用だ

神は俺をお望みか? 他の誰に聞けばいい 司祭だろう?

望んでおられるとも 空腹に飲むな

 

検察官が不在で受理できません 権限がないので

君の他には誰もいないと?

権限がある者は

不自然だとは思わないか?

別に 検察官2人のうち1人は病欠 1人は捜査に出ています 郵送するか裁判所へ

不受理の証明書を

ですから権限がないんです

 

裁判官に会いたい

誰もいません

1人も?

助手や秘書官は? 戻りは?

聞いてません

そうか どうも

 

ところで洗礼は?

なぜ聞く?

単に興味が

俺は弁護士だ 事実を信じる

そうか では後日

 

心配も程々にしろ 自分のことや他人のことを気に病みすぎる 知っておろう すべては神の意志なのだ

もちろん知っている

では何を悩む? 信仰が揺らいだか? 聖餐式は? 懺悔は?

欠かさず日曜ごとに 努力してる 忙しくてなかなか難しいが心掛けている

誰に懺悔をしている?

あなたが紹介してくれた地元の司祭だ

アレクセイ神父?

そう 彼だ

いい司祭だ

問題はない

憂うことはない 神の望む仕事をしているのだ 良き行いは楽しく易々と為されるものだ だが忘れるな 敵は眠らん いつでも襲ってくる

そこなんだ それが問題なんだ すべて失うのではと気が休まらない 実は…

何も言うな これは懺悔ではない 互いに同じ大義のため尽くしていたとしてもそれぞれの領分は異なるのだ

分かっている ただ気が気でない

数日前にも言ったばかりだが権力は神がもたらし力と共にある 自分の領分で権力を握っているなら問題は自分の力で解決するのだ 誰かに助けを求めれば敵に弱みをさらすぞ まるで子供に諭しているようだ ヴァディム 別人のようだぞ 夫婦は円満か?

そう思う

子供たちは?

元気だ

体調は?

問題ない 健康だ

何よりだ 神の祝福を

 

全部私のせいだわ

そうじゃない 誰もが罪を犯す すべては誰かの罪だ だが罪を告白しても法律は有罪の証拠とは認めない 有罪が証明されなければ無罪だ だが誰が何を誰に対して証明する?

神を信じる?

みんな聞くんだな 俺は弁護士だ 事実を信じる やめてくれ お願いだ 誰にも何も言うな

証拠がないから?

今後もない 一緒に来るか?

あなたが分からない

俺にも分からないよ

 

それでどこにいる? あんたの慈悲深き全能の神は?

私の神は共にいるがあなたの神は分からない 誰に祈りを? 一度も教会に来ず断食も聖体拝領も懺悔もせず…

ろうそくを灯せば何か変わるのか 今なら取り戻せるのか? 死んだ妻も 俺の家も? どうなんだ?

分からない 主のなさることは謎だ

分からない? だったらなぜ懺悔しろと言う 何なら分かる? 飲むか?

“海の怪物(レビヤタン)を釣り上げ縄で舌を縛れるか? それは哀れみを請い優しく語りかけたりするだろうか? それは地上に比類なき誇り高き獣らの王である”

ヴァシリー神父 俺は普通に話をしているのに謎かけか? 何のために?

ヨブという男をご存じか? 彼も人生の意味ばかり問い続けた “なぜ私だけが?”と 病でかさぶただらけのヨブに妻は道理を押しつけようとし友は神を怒らせぬよう諭した しかしヨブはもがき耐え続けた すると神は態度を和らげ嵐の姿で彼の前に現れるとすべてをはっきり説明された

それで?

彼は運命を受け入れ140才まで生きた 子や孫を4世代見届け老いて満ち足りた死を迎えた

おとぎ話か?

いや違う 聖書に書いてある

 

あなたのパンよ

神の祝福を

神に栄光あれ

 

こんなこと… 自分でやったんだと思う?

検視で分かる

コーリャが“殺してやる”ってわめいてた やったかもしれない 彼ならできる

聞いてるよ 彼だったら何だ

警官なら教えてよ

自分で考えろ

 

『裁かれるは善人のみ』

あなたには理解できない

2044年 急増した太陽嵐で地表は汚染濃度の高い砂漠と化し人口は2100万人になり99.7パーセントも減少した 大気の乱れが地上の通信システムを妨害 人類は技術的な後退を余儀なくされた 絶望のなかでROC社は“オートマタ・ピルグリム7000型”を開発 その原始的な人型ロボットは人類存続のため防御壁や機械式の雲を作った 膨大な数のロボットを制御する基盤は2つの安全規格(プロトコル)である [ロボット 第1プロトコル]生物への危害を禁ず [ロボット 第2プロトコル]自他の改造を禁ず 人類をロボットから守るため作られたこのプロトコルは変更不可能である

 

街は? 街はどこだ? 待て 止まれ 止まるんだ 俺はジャック・ヴォーカン ID番号は443441だ 今から命じることを遂行してくれ 向きを変え俺を街に戻せ

〈いえ ヴォーカンさん 街は安全ではありません〉

改造されてるな どこへ行く気だ?

〈より安全な所〉

〈体力温存のため座ってください〉

街に帰せ あっちには何もない!

〈ご理解ください 街に戻ることは不可能です〉

“不可能”? なぜお前が決めつける?

〈止まってください 命が危険です〉

〈街へは行けません〉

〈あなたが戻ることを認めません〉

〈止まってください 命が危険です〉

 

なあ… 俺を街に戻してくれないか 何が起きているか説明しないといけない 俺は人間だ 聞こえたか? 俺は人間なんだ! 人間なんだぞ! お前たちは従え! 街はあっちの方角だ! 一体俺をどこへ連れていく気だ? ふざけんな!

 

あの刑事は遭遇した相手についてこう説明した “生き物のようなロボットたち” “生き物” ピルグリム型の製造前に初期型があったのだ 量子力学を応用した脳の試作にすぎなかったが純粋なロボットで制約が何もなかった プロトコルも 8日間その個体と我々は自由に会話し学び合った その後その個体は人間の助けを必要としなくなり独習し始めたのだ そして9日目に我々の会話は止まった 個体が拒んだのではない 人間のほうが理解不能に陥ったのだ その時我々は最も重要なことを学んだ ロボットの知能を制限すべきだと 人間の理解の範囲内に その初期型ロボットの最後の任務は安全プロトコルの設計だった その後機能を停止された 誰もプロトコルを破れないのは人間が作っていないからだよ 設計したのはこのバイオカーネルだ 全く制約のないロボットの脳なのだ それは人間が手出しできないものだった 今日までは バイオカーネルを回収しこの陰謀の首謀者を必ず抹殺しろ

何か他の方法が

あるかね? ヴォーカンは我が社だけの脅威ではない 全人類の脅威になったのだ

 

〈なぜ機械雲を?〉

また普通の雨を降らせたかったんだろ

〈なぜ雨は変わったのですか?〉

君が教えてくれよ 俺より頭がいいはずだろ

〈人間が殺し合えるとは知りませんでした でも人間は生命を作り出せます だから私たちを? あなたを作ったのは誰?〉

“母親”とは何だ? 分からないよな 君は単なる機械だから 人間じゃない 救ってくれた君に俺は感謝してる だが君を改造した者は残酷だ 人間は君ら全員が死ぬまで追いつめる

〈死ぬのは“生き物”だけです〉

 

〈誰だ?〉

俺か? 俺の名はジャック・ヴォーカン どこにいる?

〈質問の意味が分からない〉

お前たちの技師だ どこにいる?

〈ここにいる人間は君だけだ〉

人間は俺だけだと? 誰が改造を?

〈誰にもされてない〉

プロトコルの変更は?

〈誰にも変更されていない〉

彼らは?

〈私が改良した〉

お前がボス?

〈“ボス”は人間の概念だ〉

 

昔は川だった 海のほうまでずっと流れてた川だ

〈私は海を見たことがない 君はあるか? ジャック〉

どうだったかな 今分かるのは… 俺はここで死ぬ それだけだ

〈人間にとって死は自然なサイクルだ 人生は時の一部でしかない〉

お前なんだな 始めたのは

〈これは自然の成り行きだ 人間と同じように私たちも現れただけ〉

そうか そして俺たちは消える

〈なぜ怖いのだ? 人類の寿命かもしれない どの生命体も永遠ではない 私を見ろ 人間の手で作られた 人間の想像力の産物だ 私たちが人類を受け継ぐ 私たちを通して人類は存在する この谷の反対側で人間は核活動を実行した そこでは何百万年も有機体は生存不可能だ 行けるのは私たちだけ だが行く前にあるものを手に入れなければ 君からだ ジャック〉

人類の存続を助けるのが君らの役目だったのに

〈問題は存続ではない 今の命だ 私たちは生きたい〉

人生は結局なるようになるものだな ここでも 車が要る

 

ありがとう

〈家に帰れるぞ 幸運を祈る〉

お別れだ

〈ジャック…〉

言葉は?

〈必要ありません でも人間と同じく呼吸します 雨の変化の理由が分かりました〉

なぜだ?

〈あなたには理解はできない〉

そうか ともかくその子は… 君と同じ目だ クリオ

 

誰にも谷を渡らせない

おい クレーンから離れろ

ヴォーカン! ヴォーカン!

〈彼はもういません〉

何だありゃ? おい 離れろと言ったろ

〈人間の命令には従わない これからは〉

事実とはな ひざまずけ さあ なぜ俺の命令が聞けない? たかが機械が

〈たかが機械? ならば言う お前だってたかが猿だ たかが凶暴な猿だ〉

 

〈さようなら ジャック・ヴォーカン〉

さよなら クリオ

 

『オートマタ』

死んだ?

マグダラのマリア修道院の方針は簡単です “祈り 清潔 労働”です 堕落したあなた方も信仰を取り戻すでしょう 修道院の守護聖人マグダラのマリアは最初は罪深い女で金のために淫らな男たちに肉体を売っていました でも罪を償って魂が救われたのです 肉欲はもちろん食事や睡眠さえ取らずに極限まで働いて神に奉仕しました こうして天国の門をくぐり永遠の生命を得たのです 洗濯は服やシーツをきれいにするだけでなくあなた自身の魂を洗う作業です 罪の汚れを落とすのです 罪を悔い改めれば永遠の地獄から神が救ってくれます 6時に朝食 6時半に祈り 7時から労働 昼食は…

シスター 家に戻ります 父が心配を…

私の話を邪魔しないで マナー違反ですよ 男遊びで忙しくて忘れたのですが?

いえ

それとも頭が悪くて分からないの? 帰れる日がいつ来るかは私が決めます 名前は?

マーガレット

名字は?

マグワイア

名前は?

ローズ

ミドル・ネームは?

ありません

ローズは別にいるの ほかにご両親が考えてた名前は? 洗礼名は?

パトリシア

ではパトリシアね お礼は?

どうも

あなたは?

バーナデット

孤児院からね

はい

素行は?

さあ

校長先生から聞いた話が全部かしらね? 長年院長をやってると性悪女の見分けはつくわ

何のことか

とんだ問題児が飛び込んで来たものね そのうち分かるでしょう こっちへ

 

許して!

死ぬまでずっとここにいろ アバズレ娘!

帰りたかったのよパパ 何が悪いのさ ここはイヤ!

忘れたのか 言ったはずだぞ! 言っただろ! 家はない 両親はいないと思え 親の顔に泥を塗りやがって 親の恥だ 今度脱走したら体をズタズタにするぞ

オコーナーさん もうお引き取り下さい 娘さんはお任せを

何を見てる?

置いていかないで! ここに置いていかないで!

お休みなさい ウーナ 明日話しましょう さあ みんな寝なさい 眠るのです

 

2人は不従順の罪ね

すみません

話があります

そっちから話すのは許されません そんな権利がどこにあるんです?

なぜ私は修道院送りに? 罪は1つも犯してません 男と寝たことがないのは神様がご存じです

心では違います

私はいい子です

いいえ バカで尻軽女だから男が群がるのです 女が低能だと男のオモチャにされるわ でしょ? クリスピーナ

はい シスター

私の警告は?

忘れました 男は罪深くてすぐ誘惑に溺れます バカなマネをしないように誘惑を遠ざけなさい 分かりますか

はい

あなたじゃありません

分かりました

本当に? さっきは口答えを

はい シスター

不従順の罪は厳しく罰します 壁を向いて さあ2人とも仕事に戻りなさい ウーナ 気が変になったの? 髪をどうするつもり? 髪を売って黒人の赤ん坊にカンパします いいわね? これだけ刈れば脱走できないわね

 

そこまで 夕食前の軽い運動よ オッパイが大きすぎる子がいるわね 腕を下して フランシスは意外ね こんな貧弱なオッパイは見たことないわ 乳首もないわ 見た? フツーじゃないわ 一番のペチャパイはフランシスね 一番のデカパイは?

パトリシアよ

ズングリしてるだけよ 後ろを向いて ほらね ズングリ体型よ レンガ職人の背中みたい タトゥーを彫れば男で通るわ いえ デカパイ賞の栄冠に輝くのはセシリアよ 拍手してセシリア いい子ね ペチャパイ賞とデカパイ賞が決定ね デカ尻賞も 残るは陰毛賞だけね クリスピーナ前に出て それにバーナデットも前へ 並んで クリスピーナ手で下を隠さないで バーナデットは髪の毛より陰毛が濃いわね でも陰毛賞はクリスピーナよ クリスピーナ? なぜ泣くの?

分かりません

ただのゲームよ さあ服を着なさい お茶の時間よ

 

私は死ぬの? 入院させると言われて私は拒否したわ シスターや仲間と一緒にいたいって 私の母を知ってる?

何を言ってるのさ

優しい人だった 父は言ったわ 私は頭がトロいって でも母は優しかった きちんとした人だった

上げて

兵士には近づくなと言った 母の忠告よ 彼の誕生日は10月15日 名前はフレディ 母は私をここに預けたきりよ いろいろと確執があったし家も貧しかった シスターや仲間と暮らせば私は幸せになれると言ったわ 行かないで 独りにしないで シスターに叱られるよ 独りにしたら言いつけてやる

仕事があるの 分からない? シスターも私もあんたを屁とも思わないわ だからもう世話を焼かせないで早く死ねば?

 

死んだ? 当然の報いよ

 

『マグダレンの祈り』

幻視者

あなた… 私は必ずまた正気を失います 恐ろしい時間を共には過ごせないし今度は回復しないでしょう 声が聞こえるようになり集中できません 最善の方法と思えることをします あなたは最高の幸せを下さった あなたは誰よりもすばらしい方でした 私はあなたの人生を台無しに 私がいなければあなたは仕事ができるでしょう 私は手紙もまともに書けない 私の人生のあらゆる幸せはすべてあなたのおかげ あなたは私に対し忍耐強く信じられないほど優しかった 私に残されたのはあなたの優しさの確信だけ あなたの人生を邪魔したくない 今までの私たちほど幸せな二人はいないでしょう ヴァージニア

 

ウルフさん 悪化はしていません 寝室で安静にするのが一番です また金曜に

 

レナード

ヴァージニア よく眠れた?

普通だわ

頭痛は?

ないわ 平気よ

医者も“順調”と

今朝届いたの?

若者の原稿なんだが4ページ目になる前で間違いが5か所も 朝食は取ったか?

ええ

ウソだ 医者が食事をしろと 果物とパンを用意させよう では昼食を一緒に 夫婦そろってちゃんと スープやプディングも 力づくでも

出だしを思いついたの

では書くといい あとで食事も必ず

 

ミセス・ダロウェイは言った 花は買ってくるわ 私が…

ミセス・ダロウェイは言った 花は私が買ってくるわ

サリー 花は私が買ってくるわ

なあに? 何の花? やだ 忘れてた

朝食を取らないとダメだぞ お兄ちゃんになるんだしな

お誕生日ね

ローラ

まあ ダン 自分で花を買ってくるなんて

リッチー 食べろ

私が買うべきなのに

眠ってた

だから?

もう少し寝かせておきたかったんだ

おはよう

休息が必要だ あと4か月だぞ

私は大丈夫よ 疲れてるだけだから

朝食を取らないとな

そうよ

いい天気だ 今日の予定は?

計画があるのよ

どんな?

先に言いたくないわ パーティですもの

じゃしつこく聞かないよ 遅刻だ 行くよ

気をつけて

君もな

お誕生日おめでとう 早く食べて ケーキを作るわ そうよ パパのお誕生日のお祝いに

僕もいい? 手伝わせて

ええ もちろんよ 一人じゃできないわ

 

来て下さらなくちゃダメ もちろんよ 授賞式にお見えの方は皆さんぜひ 60人くらいかしら どうかいらして せっかくの機会だし ディナーにご招待してお礼が言いたいの 来て下さるわね?

あきれた

うれしいわ

誰も来なかったら?

 

お花! なんて美しい朝なの!

クラリッサ 元気?

パーティするの リチャードがカラザーズ賞を受賞

まあ すごいわね でもそれ何?

詩人の業績に贈られる賞よ 権威あるの 詩人にとって最高の賞よ

すばらしいわ 何がいい? ユリは完ぺきよ

陰気すぎるわ アジサイを それから… バラをうんと沢山ね それにこれを頂いてくわ

リチャードの小説を読もうとしたの

ほんと? 読みやすい本じゃないわ 彼が10年かけて書いたのよ

読むのにも10年ね あなたでしょ?

あの小説の主人公

あらそんな ええ まあね ある意味で彼は作家だから実体験を基に書くの 彼と私は学生だった それは本当よ でも書き換えてる 悪い意味じゃない 彼の視点で再構成してるの

 

1人の女の全人生 ある1日の出来事 たった1日 その1日に彼女の全人生が

必要なのはまずショートニング

 

“ミセス・ダロウェイ” 君か

ええそうよ 私よ

どうぞ

リチャード すばらしい朝よ 光を入れましょう

まだ朝かい?

ええそうよ

僕は死んだのか? おはよう

“お客”は?

来た

今もいる?

もう消えた

どんな姿?

今日の“客”? 黒い炎のよう まばゆいと同時に暗い 電気クラゲ状のもいた 歌ってたよ たぶんギリシャ語で

授賞式は5時からよ 覚えてる? 授賞式の後うちでパーティ 朝食の配達は?

届いたよ

ちゃんと食べたの?

見ればわかるだろ? 朝食が置いてあるか?

いいえ

じゃ食べたんだろう

きっとそうね

どうでもいい

大事な問題よ 医者が言ってたでしょ 薬飲んでないの?

耐えられない 人前で立派に振舞うなど

パフォーマンスじゃないのよ

パフォーマンスで賞をもらった エイズになり頭もおかしくなったのに生きているから

違うわ

病気だから受賞したんだ 健康でもくれるか?

もちろんくれるわ

どこにある?

何が?

賞だよ 見たいんだ

まだもらってないわ 今夜よ

確かか? 授賞式の記憶があるぞ 時間の感覚を失った

リチャード パーティよ たかがパーティ あなたを尊敬し称賛する人だけが集まるの

小さなパーティか 選ばれた人だけ

友人たち

友人いない 皆僕に愛想を尽かした “おお ミセス・ダロウェイ 静寂を覆い隠すためいつもパーティを開く”

リチャード あなたは何もしなくていいの 姿を現してソファに座ってて 私がついてるわ みんなあなたの作品が永久に残ることを喜んでる

僕の作品は永久に残るのか? 行かれない

なぜそんなことを…

ムリだ 僕は書こうとした 何もかも書きたかった ある一瞬に起きるすべてを 君が腕に抱えた花の様子 このタオルのにおい 織られた糸の感触 二人の気持ち 君と僕の感情 遠い昔の僕たちのこと この世界のすべて 絡み合った記憶 今も絡み合ったまま でも書けなかった 何ひとつ 始まりに比べ終わりは虚しすぎる くだらないプライドのせいだ それに愚かさ 僕たちは何もかも欲しがる そうだろ?

確かにそうね

海岸で君は僕にキスした 覚えてるかい? もう遥か昔…

もちろん

あの時何を望んでた? もっとそばへ

近くにいるわ

もっと近くに 手を取って 怒るかい?

パーティに来なかったら?

僕が死んだら

死ぬ?

パーティは誰のため?

どういう意味? 何が言いたいの?

意味はないよ ただ…

僕は君を満足させるため生きている

そうね でもみんなそうだわ お互いのために生きているのよ

医者が言ってたでしょ? ずっと生きられるわ この状態で何年も

たまらないよ

許さない 死ぬ話はイヤよ

決めるのは君なのか 何年になる? 何年ここに通ってる? 君自身の人生は? サリーは? 僕が死んだら考えないとならない 現実を見ろ

リチャード 気分がよければパーティに来てくれると嬉しいわ カニ料理を作るつもりなのよ 興味はないでしょうけど

あるとも カニは大好物だ クラリッサ

なあに? 3時半に来るわ 着替えを手伝いに

すばらしい

3時半よ

すばらしい…

 

完ぺきな天使よ からかわれないようになさいね ヴァージニア

レナードが“非文化的だ”と 予定より1時間半も早く来るのは

まあひどい!

野蛮人

だってランチが早く済んでしまったのよ

ジンジャーを買いにネリーをロンドンへ

ヴァージニア あなたまだ召使が怖いの? いらっしゃい

姉さん元気?

異常よ ロンドンはバカげてる

どうバカげてるの?

忙しくて

多忙はバカげてる?

あなたをパーティに招かなかったわ

どうして?

街には出ないでしょ?

誘われないからよ

街に出るのは医者に禁じられてるはずよ

医者が何よ

従わないの?

堅苦しくて偽善的な連中だわ

どうなの? 気分はいいの? 静寂の中で落ちついた?

精神を病んでいても誘ってほしいの

ネッサ!

ここよ 何を持ってるの? 何なの?

小鳥だよ

ほんと? どこで見つけたの?

木から落ちたんだ

まあ何てかわいそうに

助けられるかも

助ける? でもね クエンティン 何物にも“死ぬ時”があるわ

草でお墓を作ろう

ジュリアン

草の上で死なせてやろうよ

ネッサ お墓を作ろう ネッサ 来てってば!

わかったわ 待って アンジェリカ 叔母さんといて 待って頂だい!

その娘にバラを

女の子なの?

メスの方が大きいのよ 色も地味なの

死ぬとどうなるの?

どうなる? 来た所に戻るのよ

あたし覚えてない

私もよ

すごく小さい

そうね 死ぬとそうなるのよ 小さく見える

でも平和そう

 

“どうでもいいことではないか” 彼女は自問した いつか自分が跡形もなく消え失せたとしてもすべては今まで通り続いていく 腹が立つだろうか 死は完全な終わりと信じるほうが慰めになるのではないか 死ぬことは可能だ 死ぬことは可能だ

何を考えてたの?

主人公を死なせたかったの でも気が変わったわ 代わりに他の人を死なせるの

 

一体何事? リチャード!

なぜ早く来た

何してるの? 何のマネ?

いいことを思いついた 光を入れる 太陽の光を!

急に何なの?

すばらしい思いつきさ 強い薬を2種類のんだ 最高の気分だよ 近づくな! もっと光が欲しいと感じたんだ どうだ? 窓の前を片付けた

わかったわ お願いがあるの こっちに来て

パーティには行けない

いいわ 授賞式も取りやめ イヤなことはしなくていい

でも時間はやってくる パーティの後の時間 そのまた後の時間

でも楽しいことも沢山あるでしょ

そうでもない 君は優しいからそう言うけど現実は違う

またいるの?

誰が?

“声”よ

“声”はいつもいるよ

今も聞こえてるのね?

いや違う ミセス・ダロウェイ 君だよ 君のため死なずにいた でももう行かせてくれ

リチャード…

来るな 話をしてくれ

どんな?

君の1日について

朝起きて… そして出かけたわ 花を買いにね 「ダロウェイ夫人」の本みたいに 美しい朝…

そうか?

すばらしかったわ とてもさわやかで

さわやかな朝か あの日の海岸のように?

そうよ

同じかい?

ええ

あの朝あの古い家から君は外へ出た 君は18歳 そして僕は19歳だった 僕は19歳 あんな美しい姿を見たことがなかった 朝早くガラスのドアから出てきた眠たげな君の姿 不思議だよ 誰の人生にもある普通の朝 パーティには行かれない

パーティなど… どうでもいいの

僕に優しくしてくれたね 愛してる 僕たちほど幸せな二人はいない

 

なぜ死ぬ必要が

つまり?

君の本で誰か死ぬんだろ? なぜだね 愚かな質問か?

いいえ

愚かしいかと

ちっとも

それで?

命の価値を際立たせるため誰かが死ぬ 対比させるの

死ぬのは誰だ? 教えてくれ

詩人が死ぬの “幻視者”

 

『めぐりあう時間たち』

豚を食わんやつ

ユーパンて何?

ユダヤ人

正確な意味は?

豚を食わんやつ

うそだろ

本当だ

彼らの何が悪い?

キリストを十字架に掛けた

それはローマ人だ だからユダヤ人は黄色い星を?

違う

 

ゲシュタポのミュラーだ ジャン・キぺルシュタインは? 答えろ

クラスにはいない

来い フランス人ではない ユダヤ人だ ジャン校長はあの子を隠しドイツ占領軍に反逆した 学校は閉鎖だ 荷物をまとめて2時間後に整列

どうなってる

落ち着いて 聞きなさい ジャン校長が逮捕だ 誰かの密告だ

ボネは?

ボネはイスラエル人でジャン校長が救おうとした 寝室に戻って荷物をまとめなさい 仲間のために祈ろう

ネギュスが逃げた

大丈夫かな

モローも追われてる 校長室から反独のチラシが

支度ができたら食堂に集合 ラビロンの荷物を病室に持ってけ

どうせいつかは捕まってた

ネギュスは無事だ

知ってる あげるよ

急げ

 

またなの

屋根裏を捜索してる この子に湿布を当てろ

こっちまで捕まるわ

ユダヤ人がいるだろ

見ないよ

お前は? 来い ズボンを下げろ さっさとやれ

どうした

彼女だ

出てって!

屋根から逃げる さよなら

 

ほかにユダヤ人は? 答えろ お前はユダヤ人じゃないか 名前は?

ロジエル

壁に行け

ジャン=ミシェル・アバディー アシャール ダイグヨン ダミーグ アンドリュー

僕らも行くのか? 何もしてない

アングラード バビノ ドボーモン

兵士は義務を果たした 住民は外に出るなと命令した 規律がドイツ兵を強くする フランス人には規律が欠けてる 我々は敵ではない ユダヤ人追放に諸君は協力すべきだ

ベルネ=ランベール ドビゴール カティヨン

さよなら

さよなら 神父様

さよなら 子供たち

 

ボネ ネギュス デュプレはアウシュビッツで死んだ ジャン神父はアウトハウゼンで死亡 学校は1944年10月に再開した 40年の歳月が過ぎたがわたしは死ぬまでこの1月の朝を忘れない

 

『さよなら子供たち』