Statement

 

“Statement”は不定期更新

Texts”は毎週月曜更新

The White Report”は毎月20日更新(2014/12~2016/4 連載終了)

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これはあなたが考えているようなものではありません

そうですか

残念ながら単なる普通の樹木です

だとしたらどうします?

どうって?

先生はこれを生かしますか? 殺しますか?

どうでも これは森全体には何の影響もないものですから

じゃあこれは何だろう

だからただの枯れ木です

でももしこれが生きようとしたらまた何か殺すかもしれませんね

ありえません

そうでしょうか

藪池さん 何が言いたいの?

何も

私は別に止めませんけど

先生また見に来てください

 

何これ?

古い木だよ

からかってるの?

いや

私こんなところに来たかったんじゃありません

じゃあどこへ?

世界です 外の世界

ここもそうだよ

藪池さんも普通じゃないのね

僕は普通だよ

どうするつもりですか?

どうも 平凡な人間には平凡なことしかできない

平凡なんて嫌です 私はそんなふうになりたくない

君は特別な一本の木と森全体とどちらかしか生き残れないとしたらどっちを選ぶ? これはとても難しい問題だ でも最初から結局答えはひとつだった 両方が生き残るしか道はない 生きる力と殺す力は同じものだ これは君の姉さんが教えてくれた さあどうしよう 片方が生きればもう片方は死ぬ 両方が生き残ろうとすれば下手をすると両方が知ぬ 答えはない というよりそもそもこういうことを問題にする方がおかしかったんだ 両方が生きようとしているんだから両方が生きればいい それがあるがままということだろ もちろん両方が殺し合えば全滅する それもあるがままだ でもそれじゃあ世界が無茶苦茶になってしまう それを避けるために法則や軍隊が必要だと桐山くんはそう言った 僕もついこの間まで何の疑いもなくそういう仕事の真っ只中にいた でもやっとわかった 僕はあるがままの平凡な人間でいい それで十分だ 特別な木なんて一本もなかったし森全体というのもなかった ただあっちこっちに平凡な木が一本ずつ生えてる それだけだ

じゃあ藪池さんがやっていることは何なんですか?

生かしてみたり殺してみたりあるがままにだ

私には理解できません

 

『カリスマ』


志津子は海としゃべってた 何やらブツブツブツブツ楽しそうに 俺は隠れて聞いてたことがある 人間の言葉じゃなかった

 

『リング』


君は誰だ?

誰でもいい

僕が発見した女か? 待っていたんだな 1000年間も

ええ 男を破滅させるために

やめろ

行こう 私と一緒に

どこへ?

地獄へ

死人が口を利くんじゃない

 

『LOFT』


寝ちゃった 具合どう?

うん

何か飲む? コーヒーいれようか

ミチ

うん 何?

私このまま死んじゃうのかな?

そんなことないよ

そうだよね ずっとこのまんまなんだよね

 

『回路』


これ以上俺に何しろって言うんだ? 君まさか柴田礼子じゃないのか? 違うのか 違うんだな 柴田礼子じゃないんだな おまえは誰なんだ?

ずっと前 あなたは私を見つけて私もあなたを見つけた それなのに みんな私を見捨てた

あの時の女か

見てたくせに 知ってたくせに

君はどうしてほしかったんだ

あなたにできることはあった

何を?

あれから私がどうなったか知ってる?

いや

何年もあそこにいて ずっと待ち続けて 誰からも忘れられて 死んだ

 

やっと来てくれたのね あなただけ許します

 

春江 これは 俺がやったのか?

そんなこともうどうでもいいじゃない

思い出した 半年前俺は君を

もういい しかたないよ

君は俺を恨んでないのか

いいえ

どうして?

恨んだってしょうがない 登には登の未来があるんだし だからもう忘れて 私のこと

春江 俺を恨め あの女と同じように俺を恨んでくれ

何も知らないままでいられたらよかったね

そうはならなかった 見て見ぬふりすることはもう俺にはできない 過去を見捨てた その責任は重い

そんなことしないで

君も俺を許すのか どうして? 俺だけが

それじゃあ 私いく

 

私は死んだ だからみんなも死んでください 私は死んだ だからみんなも死んでください 私は死んだ だからみんなも死んでください 私は死んだ

 

『叫』


それにしても白井君遅いねえ

開けてみろ 開けてみろ

これは何だ? 何をしたんだ?

白井君がそうなった理由はわかるな?

どうする気だ?

どうする? それはあんたが考えろ

 

富士丸君 何をしてるんだ? この女の子は何の関係もないじゃないか いったい… どうして…

あんたまだ俺という人間がわかってないようだな

いや わかった よくわかったよ 邪魔して悪かった 富士丸君 許してくれよ 何にもしないから 許してくれよ

何を許すんだ?

ともかくこの手を離してくれ 頼む

あんた俺のことがわかったと言ったな いったい何がわかるんだ?

背骨が潰れそうなんだ

俺を理解しようとしてもあんたにはとても耐えられない

助かった ありがとう 助かったよ

警察を呼ぶか? しかしあんたが呼ばなくても警察はいずれ来る どうしてそう急ぐんだ?

そんなつもりはないよ 本当だよ

俺のことを覚えておけ

もちろんだ

いいな 俺のことを忘れるな

 

どうして? どうしてこんなことするの?

それを理解するには勇気がいるぞ

勇気はあるわ 説明してちょうだい

あんたは運が悪かったんだ

何よそれ そんなんじゃ説明になってないわ 私もあなたのことが知りたいの 説明できないのね だったらもうやめて お願い

あんたは突然俺の目の前に舞い降りてきた そのときからこれが始まったんだ こうなることはわかっていた 俺の体にはあんたたちとは違う時間が流れている

どういう時間?

絶望的な時間だ

そんなことないわ あなたも私と同じ人間でしょ? 時間は平等に流れているものよ

全然違う ちょっとは頭を使え

わかったわ もうあなたのことを知りたいとは思いません だからあなたも私のことは構わないで 早く自分の住処に帰ってください 二度と出てこないで

あんたもそうか 世界に俺のような人間がいることを信じられないわけだ

私信じません

しかし俺はここにいる 説明は終わりだ 俺のことを忘れるな

 

『地獄の警備員』


僕が思うに、きみはきみひとりの小さな全体主義社会を築こうとしてるんだよ、そうレイはかつて言った。もちろん、きみはその社会の独裁者なんだけど、同時に抑圧された民でもある。

 

「虚栄心、ただそれだけです」と彼女は言う。「でも、虚栄心は俳優にとって必須なんです。それは空っぽってこと。虚栄心っていう言葉はそれに由来するんです。私はそれを目指して仕事し、その上に築き上げるのです」

 

「身体が私の敵だったことはありません」と彼女は言う。「私はいつでも身体とうまく付き合ってきました。他人の身体ができないことを仕込んできたのです。身体はわたしをそのままに受け入れます。私は分析し、その形を変えるのです」

 

「あれは過去と未来に関することです」と彼女は言う。「私たちが知り得るものと、知り得ないもの」

「でもここで私たちはその両方を知っている」

「私たちは両方を知っています。その両方を見るのです」

 

「おそらくコンセプトは、時間を別の形で捉えるということです」と彼女はしばらく経ってから言う。「時間を止める、あるいは引き延ばす、あるいは開いて曝け出す。キャンバスに描かれたものではなく、生きている静物画を作り出すのです。時間が止まるとき、私たちも止まります。止まらなければ、私たちは剥き出しにされ、自信がなくなります。よくわかりませんけど。夢を見ていたり、高熱にうなされたり、薬漬けになったり、抑鬱状態のときのように。そういうとき、時の流れが遅くなるような、止まってしまうような感じがしませんか?そうなったら何が残ります?誰が残ります?」

 

最初は孤立した他者性であったものが馴染みのある、個人的なものにさえなること。それは我々が何者なのかに関わるのだ。自分たちが何者かを練習していないときに我々が何者なのか。

 

『ボディ・アーティスト』


P.80 自分が塗料を塗るのはそれを取り除くためだ、台所用具でこすり取るためだということに気付いた。跡に残る筋のようなものが好きだったのだ。

 

p.94 「みんな、そんなこと不思議でも何でもないって考えているんだ。ヘンリー・キッシンジャーが病気になるたびに、千マイルも彼方にいる女が病気になったってね。我々凡人は自分にできる方法で病を手に入れなきゃいけないんだ」

 

P.208 「極秘情報によりますと、向こうには長官のゴミをもってツアーに出る意図があるようです。主要都市でホールを借り、左翼がかった社会学者にゴミひとつひとつを分析させる。ヒッピーを連れてきて裸の体にこすりつけさせる。性行為すれすれのことをする。それから詩人を連れてきて長官のゴミを題材に詩を書かせる。そして最後に、ツアーの最後の都市でそのごみを食べるっていうんですね」「そして、排泄する計画のようです」「人前で」「極秘情報によりますと、向こうはこのツアーをドキュメンタリー映画にして一般公開するつもりのようです」

 

P.209 身上調書とは事実や事実性を超越した、より深い真理なのだ。書類をひとつ、ぼやけた写真を一枚、根も葉もない噂をひとつずつファイルに収めるごとに、それは無節操にひとつの真実となっていく。根拠のない真理だからこそ、争いようがないのだ。事実もどきがファイルから染み出してきて、地平線を越えて広がり、肉体と精神を吞み込んでいく。ファイルこそがすべてであり、生命など無にすぎない。

 

P.364 子供たちは煉瓦の壁や街灯の柱や消火栓を利用して見事に適応していく。彼はひとりの少女が縄跳びをするのを眺めた。窓の鉄格子に縄の一方をくくりつけ、弟に縄のもう一方を持たせて回させる。それから真ん中へ向かって飛ぶ。歴史もなく、未来もない。

 

p.382 彼は鬼(イット)になるということはどういうことなのか考えていた。別の子供に捕まえられるとお前は「イット」になる。いったい正確な意味は何なのか? 中性化されるという以上に。名前を失い、悪魔と化すということ。イット。あまりにも力が強いので名前さえ口にすることができない邪悪な存在。

 

p.486 クララは色調の構成要素を透視するのも好きだった。色彩の高等理論、おそらくは絵そのものの理論―絵の深部を透視し、母親を、その女を、その母親そのものを眺める。椅子に座って物思いに耽る女性を捉えた何気ない一コマ、とにかく猛烈にこちらの興味をそそる存在。クエーカー教徒らしく清潔で、静謐で、心ここにあらずという感じなのだが、それはきっと―とクララは考えた―記憶のうちに没頭し、追想に我を失っている瞬間を捉えたためであろう。彼女の息子である画家自身の教条主義的な効果が優先されているにもかかわらず、強力で哀調に満ちているその姿。

 

p.519 ジョージ・マンツァ、ウェイターのジョージがみすぼらしい部屋で椅子に腰を下ろしていた。この男には何かがあった。居眠りしているわけでもないし、思念に沈んでいるわけでもないが、そこには何かがあった。目は覚ましていたが、反応はなかった。そして、そこには何かがあって、それがアルバートに沈黙を命じた。彼は戸口に立ったまま眺めていた。その部屋には匿名の不潔と言えるようなものがあった。そこでしばらく時間を過ごしても、そこに何があったかをはっきりとは思い出せない。そんな部屋だった。遺失物、そのほか雑多ながらくたがばらまかれ、色褪せて名前を失っている。ここにあるものは将来使用されるために保管されているのではなく、単に行き場がないからここにあるのだった。

 

P.579 もし子供たちが健康で野良犬が中産階級なら、そもそもこんなところに来ないのだ。

 

p.590 食堂でエドガーはグレイシーの正面に腰を下ろしている。彼女は味わうことなく料理を食べていく。というのも、数年ほど前、味などは問題ではないと心に決めたからだ。問題なのは食器の洗浄なのだ。

 

『アンダーワールド 下』


最初に発見されたのは子熊を抱いた母熊の死体 大きなオスの熊に襲われ死んでいた 次に別の母熊が氷河の上で発見された そこには子熊の逃げた跡が残されていた 母熊は言った “ヤツらはみんな恐ろしい怪物よ あなたにもそのうち見えるはず”

 

心を隠すのよ それを覚えなさい

 

立ちなさい 前へ 今からあなたたちの苦しみを取り除きます 不満があったら言いなさい 今日は疑似体験の実験を行います 袋の中に入ってみたい人は? 苦しみを取り除くためよ どちらか えらいわ 勇気のある行動ね 袋に自ら入る者には生きてる価値はない もっと強く 強く もっと強く これはゲームよ 勝者がいて敗者がいる ゲームを続ければ生きていける

 

母親には何かが見える?

そう聞いた

本当だと? 信じてる?

心を隠すのよ それを覚えなさい

 

母親は気が触れてた

見えないのね そのうち見えるわ

 

バカな考えを取り除くわ 母親と同じ道を? 普通になれるわ 怪物などいない

ウソよ

 

見える?

見えるよ 私にもようやく見えた 怪物が 普通に暮らす怪物 私みたいに 全員そうだった 見て見ぬふりを 彼女のおかげで真実が見えた 一緒にいれば怖くない 凍えもしない 熊の世界でも

 

『カレ・ブラン』


ネズミが通貨の単位となった

ズビグニェフ・ヘルベルト

 

“自分は何も知らない”という感じがすることは?

それはどういう意味だ?

世の中の楽天的な風潮 好景気 株の高騰 物事はすごい勢いで起きる 何もかも同時に 手をのばすと何に触れる? 誰もが10分おきに幾多の分析をする パターン 比率 指標 情報の全体像 僕は情報が大好き 我々の“糧と光”だ まさに“奇跡” 我々が世界の意味を握ってる 我々の影響の下で人々は生きている でもだからといってそれが何だ? オフィスではなく車にいる理由は?

車にいると思う理由は?

もし答えるなら…

どんな前提だ?

僕の言うことなどとても薄っぺらでしかも不正確でしょう あなたはきっと僕を憐れむ

床屋へ行くため車に

床屋をオフィスへ呼べば? または車に床屋を呼び髪を切ってオフィスへ

床屋には何かがあるんだ

壁のカレンダー 鏡… ここには床屋のイスがない シャイナー

 

君の車は?

見つからないの

送っていくよ

それはダメよ 絶対に あなたは車で仕事する 私はタクシーが好き 運転手の故郷の話を聞き知識も増える

彼らは“恐怖と絶望”から来た

ええ そのとおり 不穏な国のことをタクシーで知るのよ

会うのは久しぶりだな 今朝君を捜した

青い瞳なのね

朝食は済んだ?

いいえ

腹にたまる物が食いたい

青い瞳だなんてひと言も 何の話をするの?

屋上にヘリポートを 空中権は取ったが許可がまだだ 食べないのか? エレベーターの脇に射撃場も 俺たちの話を

あなたと私の話? してもいいわね

次のセックスは?

いずれね 約束する

しばらくしてない

仕事をするためにエネルギーは貴重なの

書くために?

そうよ

どこで書いてる? 姿を消すね エリーズ

身を潜めるのよ いつもそうしてた 母はよく私を捜させたわ メイドや庭師たちが私を捜すの 母は私が水に溶けたと…

君のママが好きだ 同じ胸をしてる

胸?

ツンと上を向いた乳房

これからどこへ行くの? どこかで会議? オフィス? オフィスはどこ? どういう仕事なの? 物事を知るのが仕事ね 知るために生きてる 情報を手に入れそれを恐ろしい何かに変える あなたは危険な男なのね 預言者かも

 

なぜニヤつく?

通貨“元”のレバレッジを軽率にやりすぎています

好転するよ

確かにいつもそうでした

軽率とはつまり…

今の現象がチャートに現れない

現れてるさ よく見てみろ 標準的なモデルを信じるな “元”は何かを伝えようとしてるんだ それを読み取れ

我々は無謀な賭けをやってます

ニヤつくな チン もう“元”は上がらない

そう信じたい 借り入れ額が莫大だ

限界への挑戦が“軽率”だと?

“無”への投機と同じです

君の薄ら笑いをお母さんは“父親ゆずり”ととても嫌がりカウンセリングも考えた

何とか調整しなくては

シャイナーは?

空港へ移動中

なぜ“空港”と言う?

僕はその質問には答えられません

彼は“ネットワークは安全”と

じゃ安全です

侵入から守られているか なぜ俺にはまだ起きないことが見える? 年は?

22歳 22歳です

若く見える 俺もいつも若く見えたが今は違う

若くは感じません 居場所がなく思えます この仕事をやめる潮時かも

ガムを噛まずにいられるか? 君の若さと才能なら追求すべきものは1つだ 何だと思う? テクノロジーと資本の不可分な相互作用だ

頑張ったのは高校が最後です

“ネズミが通貨の単位に”という詩が

なるほど 面白いですね

世界経済に衝撃だ

ドンやクワチャよりマシ

名前がすべて

確かに… ネズミか

“ネズミ ユーロに対し下落”

“ロシア ネズミを切り下げる可能性”

“白いネズミ”

“妊娠したネズミ”

“妊娠ネズミ 大量に売られる”

“ネズミに切り替え”

“ネズミ 世界通貨へ”

“米国 ネズミ本位制”

“米国ドル ネズミに交換可能”

“死んだネズミ”

“死んだネズミの山 世界規模の健康への脅威”

もう若く見えない あなたは何歳です?

 

会う予定だった?

通りかかった

だから寄ってくれたのね うれしいわ 久しぶりだもの あなたのこと読んだわよ テレビで見たのかも

何を?

結婚式のことよ 話してくれないなんて変ね

変じゃない

変じゃない? 大富豪同士の結婚 王家の政略結婚みたいね 中世ヨーロッパの

俺はNYのタマを持つ世界市民さ

2人の資産は何十億ドル?

彼女は詩人だ

詩人なの? ただの“シフリン家の人”かと

両方さ

大金持ちの才女ね 彼女は体に触らせてくれるの?

君はきれいだ

41歳でようやく自分の問題に気づいた女のわりにね

問題って?

人生というのはあまりに現代的なこと 配偶者は何歳? いいの 知りたくない “黙れ”と言って もう1つ聞くわ 彼女ベッドで上手? リムジンでは?

まだ分からない

由緒ある富豪の娘の問題点ね ねえ “黙れ”と言って いいことを教えるわ

何だい?

特別な情報よ 個人所有のロスコの絵がもうじき売りに出る

見たのか?

3~4年前にね とてもすばらしい絵よ

チャペルは?

ロスコ・チャペル

チャペルは買えない

なぜ分かる? 連絡してみろ

絵のほうが喜ぶかと思った ロスコの絵をずっと欲しがってたでしょ

チャペルには絵が何枚?

分からない 14~15枚ね

完全な形で保存すると伝えてくれ

保存ってどこに?

伝えろ 俺のマンションだ スペースは十分にある もっと広くできる

人々が見たがるわ

買えばいい 俺より高額で

偉そうな言い方だけどロスコ・チャペルは世界のものよ

俺が買えば俺のものだ 要求額は?

売るわけないわ 社会的責任についてお説教なんかしない あなたは口で言うほど粗野じゃない

幾らだ?

お金を遣うことの意味は? 1ドルでも100万でも

絵に?

何でも

個人用エレベーターが2基ある 1基はサティのピアノ曲が流れ通常の1/4の速度で動く サティに合うんだ これに乗るのは落ち着かない気分の時 心が安らぎ癒される

もう1基は?

ブラザ・フェズ

誰?

スーフィー系ラッパー

知らないわ お金の意味ももう分からない

巨額の金を失いつつある “元”の下落に賭けたんだ

向こうは夜よ

市場は眠らない 上海は24時間制だ 主要な市場は週7日やってる

知らなかった 知らないことばかり 損失は何百万?

数億だな

年は幾つ? 28歳?

28だ チャペルへ行って金額を提示しろ 幾らでも すべてが欲しい 何もかも 前に行ったな?

何て?

“浪費された才能は官能的”

どういう意味か…

 

リムジンだらけ どれも同じね 卒業パーティの高校生かバカげた結婚式みたい 同じことに魅力が?

影響力のある男の証だ いちいちテリトリーに小便をかけなくて済むのさ それのどこが悪い?

ニッサン車にキスしたい 今日が何の日だか分かる? 私の休みの日よ

分かってる

休みが必要なの

分かってる

分かってない 分かるわけない 私は闘うシングルマザー

厄介な問題が

私は母親 公園を走ってたら携帯電話が鳴ったのよ 子供が40度の熱を出さないと小守は電話してこない 厄介な問題よ “元”のせいで破綻しかねない

水を飲め 奥に座れよ

正面がいいの スクリーンは見たくないし

元は下落する

そうよ

消費が鈍ってる

そうよ 中国銀行は金利を変えなかった

今日のことか?

今夜よ 上海の情報源に電話したの

走りながら?

あなたと会うため街を走りながら

元は上昇しない

そのとおりよ でも上がったけど

昨夜寝てない

何なんだ?

医者です

誰だ?

ドクター・イングラム

いつもの医者は?

急用でよそへ

ゆっくりはっきり喋れ

急用でどこかへ 家族の問題でしょう 私は同僚です あなたの耳の穴を洗浄したことが

いつも検査を?

そう 毎日だ

たとえ…

たとえどこにいても必ずだ

いつも同じ手順で毎日やってるの?

状況によって変わる

自宅にも来るのね いいわね 週末とか

人は週末でも死ぬ そういうことが起きるんだ

そうね 考えたこともなかった

週末だから死ぬ

車が止まってる もう動いてない

大統領が街に

そう 公園を出る時彼を見た気がした お供のリムジンや先導バイクがいたの 大統領かと思ったんだけど有名人の葬列だった

人は毎日死ぬ これはどうする?

しばらく様子を

何もしないのか?

様子を見ないと 立って下さい

私たちに有利な噂が2つある 6カ月連続で倒産が増えてるわ 中国の大企業が潰れてる いい傾向よ

元は下落

信頼感を失い元は下がる

ドルが上がる

元が下がる チンは?

チャートを作成中だ

これはムリよ

できるさ

株価のチャートとは違う あっちは予測可能な要素がある これは違う

チンに見方を教えるんだ

あなたが見るべきよ “預言者”だから 彼は子供よ あの髪形やイヤリング

イヤリングはしてない

空想にふけってるなら処置が必要

2つめの噂は?

2つめは財務大臣に関わる噂よ 誤解されるコメントをした 経済に関する発言が誤解を呼んだみたい そのせいで彼の真意を国中が分析しているのよ 問題は “言葉”より“間”の取り方 “間”の意味をどう考えるか 深い意味があるのかそれとも息を吸っただけか 大臣の呼吸で経済全体が揺れてる

ボトルを潰してる

柔らかいからよ

握りしめて潰してる

よくあることよ

性的な緊張だ

日々のイラつきよ

性的な緊張だ こういう日には…

なあに?

哀れなジョギング信仰 君は“走り”に向いてない だらしない体 体臭があり濡れている 男が興奮してもシートベルトをして座る女

なぜ今までこうしなかったの?

前立腺が非対称です

 

読んでくれ

ネクタイはどこ?

検診を受けた 心臓の映像も見たよ

言いたくないけど…

何だ?

セックスの匂いが

医者の診察の匂いだ

体中セックスの匂いよ

それは飢えの匂いだよ 昼食を食いたい 君もそうだ 俺たちは生きてる 食べたり話したりが必要だ

空腹かどうか分からない

食べれば分かる セックスは?

私たち結婚してまだ数週間なのよ

何であれ人は短い時を生きる

時間を数えて生きたくない こんな議論もイヤだわ

セックスしたい

するわよ 必ずね

したいんだ

セックスを

そうだ しないでいる時間はない 時間は減る一方だ 知らないのか?

あの本屋が好き なぜか分かる? 半地下の作りだからよ

隠された感じがいいのか 何から隠れるんだ?

時には騒音から

物陰でもの思いに沈む無口な子だったのか

あなたは?

考えたこともない

何か考えて それを話して

いいよ 4歳のとき太陽系の各惑星での俺の体重を計算した

ステキだわ 気に入った 科学とエゴが結びついてる いつ湖へ行く?

湖など忘れろ

気に入ってると思った 家を設計し建てた 2人きりになれる場所 湖は静かよ

街も静かだ

私たちが住む場所わね 遠いし高層階だしね 車はどうなの? あまり静かじゃないのに長い時間車にいる

“プルースト”した

つまり?

改造したんだ 車のベースユニットを半分にぶった切り鉄片を足し車台をのばす 好きな長さにね やりたければ6メートルでも ついでに“プルースト”したのさ コルクで防音すること

ステキね 最高だわ

車は当然防弾仕様 コルクを貼るのは難しいが何とかなった 見せかけだが大事なことだ

防音効果は?

あるわけないだろ 都会は騒音の中にある どの世紀もそうだ 17世紀と同じ騒音やそれ以降の騒音が混じる でも俺は騒音なんか気にしない 騒音から活力を得る “それ”があることが重要だ

コルクが

そうとも コルクが それが大事なんだ

注文した品?

何を注文した?

鴨のコンソメ ハーブ入り 本当よ あなたはセックスした匂いがする

やった匂いじゃない したいという願望だ 君を見つめていると俺たちのことが分かる

どういう意味? いいえ 言わないで

君としたいんだ ある種のセックスには清めの要素が 幻滅を中和するための解毒剤だ

刺激が必要なのね それがあなたの本質

本屋の後の予定は? 近くにホテルが

本屋へ行きたかっただけ 本屋にいて楽しかったわ あなたは?

床屋へ行く

必要ある?

君のすべてが必要だ

意地悪やめて

“刺激”の意味を知りたい ホテルへ行ってやり直そう または情熱的に終えよう 始めたばかりの関係を激情と共に終える ホテルは2つ 選べるよ

私はイヤだわ

だろうとも 君はやるわけない

意地悪やめて

<ネズミどもまた来やがったな>

幽霊が世界に取り憑く 幽霊が世界に取り憑く 幽霊が世界に取り憑く

 

皆 金儲けの技術を考えたがる ギリシャ語にその言葉が“クリマティスティコス” でも実行には“幅”が必要 現在の状況に合わせるの お金は方向転換した “富”は富そのものが目的になった そうでない富はない お金は物語性を失ったの 絵画と同じにね お金は語りかけてこない あなたの車大好きだわ スクリーンの輝きがすばらしい サイバー資本の輝きよ きらびやかで魅惑的 全然理解できない それはいつか止まる? 速度を緩める? もちろんそうならない 必要ないもの すごいわ “観念”を前にすると私は慎みをなくす 観念とはつまり時間 未来に生きること 数字が流れていく お金が時間を作るのよ 昔はその逆だった 時間が資本主義を加速させた 人は“永遠”を捨て“時間”に集中した 労働をより効率的にする“計れる時間”に サイバー資本が未来を作る ナノセカンドって?

10のマイナス9乗

つまり?

10億分の1秒

全然理解できない でも世界を把握するには厳密でいなくては

ゼプトセカンドも

すごいわね

ヨクトセカンドは10の24乗分の1秒

今や時間は企業の資産よ 自由市場システムの一部“現在”は遠のき“未来”に道を明け渡した 巨大な投資力が潜む未来に 未来が常に存在している じき何かが起きる 今日かもしれない 時間が加速を正し自然をもとの状態に戻す何かが 理解すべきだわ 夢想的な思考は人々を置き去りにする それがこの抗議デモよ テクノロジーと富の夢想 サイバー資本が人々を死のどん底に突き落とす 人間の合理性の欠点とは?

何だい?

合理性の果ての恐怖や死を見ないフリすること これは未来に対するデモ 未来が現在を押し潰すことを避けたいのよ 未来は常に“完全で不変 誰もが理想的で幸せ”だから失敗する 未来は人々が願う場所にならない あなたがここにいると彼らが知ったら? アナーキストの論理を?

知ってる

言って

“破壊衝動は創造衝動”

資本主義の思想と同じね “強制的破壊” 古い産業は容赦なく抹殺 新しい市場を強制的に生み古い市場は再開発すべし 過去を破壊し未来を築け

“幽霊が世界に取り憑く 資本主義の幽霊が”

高い知能というものは環境を大きく変えてしまう なぜテクノロジーは大事なの? 人間の運命を築く力だから 神や奇跡などは必要としない でもテクノロジーはどの方向に進むか分からない

“未来が俺たちを急き立てる”と言うのか

理論上の話よ 私はあなたの理論担当主任だから 目新しくないわ

新しいって何だ? 奴はやった

ただの真似事

ガソリンをかぶり火をつけた

ベトナムの僧侶たちが蓮華座を組んでやったことよ

痛みを想像しろ 感じるがいい

大勢が自らを犠牲に

人々に伝えるために 考えさせるために

目新しくない 面白いわね 男たちと不滅性って 天に届くタワーに住みながらあなたは天罰を受けない 飛行機も買ったのね 忘れてたわ ソ連製… 旧ソ連製とか 戦略爆撃機 小さな都市を壊滅できる そうでしょ?

Tu-160 NATOはブラックジャックAと呼ぶ 1988年頃配備された 核爆弾と巡航ミサイル搭載 それらは契約外だったが

飛行許可は出ないわね 飛べるの?

飛んだよ 武装したら許可してくれないが

どこが?

国務省や国防総省 アルコール・タバコ・火器取締局

ロシアは?

知るか カザフスタンのベルギー人武器商人から買った その時操縦したんだ 砂漠の上を30分間 価格は米ドルで3100万

今どこに?

アリゾナの保管施設だ 交換部品が入手できなくて風にさらされてる 時々そこへ行く

何しに?

眺めるんだ 俺のだから

“人は死なない” これが新しい文化の教義よね 人々は情報の流れに飲み込まれる 私は何も分からない コンピューターは死ぬ もうほとんど死んでる 独立したユニットとしてはね ボックス スクリーン キーボード… すでに日常生活に溶け込んでる そうでしょ?

“コンピューター”という言葉…

それさえ時代遅れでマヌケね

 

いつからタバコを?

15歳の時に覚えたの 女の子なら誰でもそう “私は痩せっぽちの少女じゃない” ドラマチックな気分にさせる

少女は自分を発見し周りも彼女に気づく 彼女はやがて結婚し夫とディナーへ サテンのカクテルドレスだね

そうよ

ネイビーブルーだ

そうよ

シルバーとルーサイトのアクセサリー

ええ そうよ

俺は気づいてる 芝居はどうだった?

休憩で出てきたわ

どういう芝居だ? 君と会話したい

衝動的に劇場へ 観客はごくわずか 始まって5分で理由が分かった 上着はどこ?

俺の上着か

さっきは着てたでしょ

上着はどこ?

騒ぎでなくしたらしい 車を見ただろ? 襲撃にあった 2時間前の大規模なデモ もう忘れられてる

私も忘れたいことが

ピーナツの匂いか

さっきあなたがホテルから出てくるのを見たわ 私を連れていこうとしたホテル?

ホテルは必要ない トイレでやろう 裏道のゴミ箱の横でも 俺はごく普通に対応しようとしてる よく注意を払い君の気分や服装に気づく とても大事なことだ 人々がどんな外見でどんな服装をしているか

どんな匂いか 言ってもいい? 私は妻らしくしすぎ? 何が問題かというと私は無関心でいられないの 知らん顔できないのよ 痛みに影響されやすいの 痛みを感じてしまう

実にいい 普通に話してる そうだろ?

分からない

前立腺が非対称だ

つまり?

さあね

医者には?

さっき診せた 診察は毎日

さっき診せたの?

だから分かった パッカー・キャピタル社の有価証券がほぼゼロに たった一日で 俺個人の資産数百億ドルも消滅寸前だよ 俺を殺すという脅迫も いいんだ 大丈夫だよ 俺はとても自由を感じる

なんてひどい… そんな話はしないで 自由ってどんな? 破産して死ぬ自由? 金銭的な援助をするわ 助けるためなら何でも 会社を再建して あなたなりのやり方で 何が必要か言って 援助する でも私たちの結婚生活はこれでおしまいね 自由になりたいなら今日がその日よ

 

クレイジーですね 劇場全体が どう思います?

分からない

私もです でもクレイジーだ まるで麻薬をやってるように

そうだな

これは最新の麻薬です 通称“ノヴォ” 痛みを消し去る みんな恍惚状態です

ガキども

そう ガキどもです どんな痛みを感じてるのか 音楽の感想? こんなものかな うるさすぎるけど 彼らの踊りはすばらしい ですが彼らにどんな痛みが?

誰にでも痛みはある

この私がこんな所に ここを出る時は言って下さい

奴はどこに?

入り口です トーヴァルですね? 入り口を見張ってます

人を殺したことは?

どう思います? 日常的でした

 

お前が行く先では死に意味などない

 

何してる?

どうでもいい 答えろ なぜ俺の命を狙う?

あんたを殺したい理由はあまりに簡単だ 人生に意味を持たせたいからさ 簡単だろ? 俺は頭の中に明確な意識を持ってる タバコをくれ

飲み物をくれ

俺が分かるか?

顔がよく見えない

座れ 話をしよう

よし いいとも 座って話をする 長い一日だった 多くの出来事 大勢の人々… 哲学的な時間が必要だ 思索のために そうとも まだ不慣れだな 俺はそれを撃った 危険な銃だ だがこれは… 家に射撃場を作ろうかと

オフィスに作れよ 奴らを端から撃てばいい

オフィスを知ってるのか 来たことが?

俺は誰だと思う?

さあね 誰だ? 名前を言ってくれ

知るわけないさ

顔より名前を覚える 言ってみろ

ベノ・レヴィン

そいつはウソだ 本名じゃない でまかせだ だがお前が分かった 今日の昼銀行の外のATMにいたな

見たのか

見覚えが なぜだろう 俺の会社で働いてたのか 俺を殺したい? 結構だ

お互いの人生のすべてがこうしてこの瞬間へと導いた

そうか できればビールを飲みたいんだが 何歳だ? 興味がある

俺の存在は妙か?

幾つだ?

俺たちは存在する 41歳だ

素数か

面白い数字じゃない もう42歳かもしれない いちいち数えてないからな “私自身が謎となった” 聖アウグスティヌスの言葉だ “そこに私の病がある”と

重要な自己認識だな

俺のことじゃない あんたの話をしてる あんたの全人生が自己矛盾だ 自ら破滅を招いている なぜここに? トイレから出て聞いたろ?

トイレには気づいた ここに来て最初に気づいた 排泄物はどうなる?

便器の下に穴があいてる まず床に穴をあけ穴の位置を合わせてトイレを置いた

穴は面白い 穴に関する本もある

クソに関する本も出てるよ 問題はあんたがこの家に来た理由だ 命を狙う者がいるのに

なぜだ? 教えてくれ

あんたが話すんだよ 何か予期せぬ失敗か 自尊心への打撃か

元だよ 値動きを予測できなかった

元か

チャートにできなかった 捉えきれなかった

それですべてを破滅に導くのか

こんなの初めてだ 気持が半分に

心が半分しかないからだ タバコをくれ

俺は吸わない

途方もない野心 侮蔑 リストに列記してやる あんたの貪欲さ 人間関係 人を酷使し無視し虐げる 自己完結性 自責の念の欠如 あんたの才能だ

他には?

早く死ぬ予感

他には?

他には… 密かな疑念 自分で認めぬ疑念

詳しいな

葉巻を吸う あんたについてすべて知ってる あんたの表情も読める 何年も観察した

うちの社員か 部署は?

通貨の分析だ 専門はバーツ

面白い

バーツが好きだった でも会社のシステムが細かくなりすぎついていけなくなった あんたやスクリーンの数字が憎くなった 俺の人生もだ

1バーツは100サタン 本当の名は?

言ってもムダだ

言ってくれ

リチャード・シーツだ

何の意味もない 俺がお前から盗んだと? 知的財産であるアイデアを

人は多くを想像する 1分間に100ものことを 何を想像しようと俺にとっては現実だ 現実になる病気なんだ マレーシアのことも 俺の想像は現実になる 現実の時空を持つ

理屈っぽい話はイヤだ

性器が体内に潜り込む不安を抱えてる

ありえない

下腹部の奥へ

ありえない

俺にはそれが分かるんだ

見せてみろ

見せる必要はない 昔から言われてる伝染病の一種だ 大勢が恐怖と苦痛に生きてる

分かった お前みたいな人間は存在する 信じるよ だが暴力や銃は違う 銃はまずいぞ お前は暴力的ではない 暴力は現実だ 現実の動機に基づく 自分を防御し攻撃的な行動を取れと思わせるんだ お前がやろうとする犯罪はくだらん模倣だ 腐った幻想 他人の真似事でしかない それも病気だ 人からうつされた 重要じゃない

すべてが重要だ 何もかも あんたは汚らわしいほど異常な金持ちだ 施しの話はするな

施しはしない

知ってる

金持ちへの憎悪はお前らしくない

俺らしさとは?

混乱だ だから失業してる

なぜ?

人を殺したがる

それが理由じゃない

じゃ何だ?

体臭だよ 嗅いでみろ

俺も臭い

自滅の瞬間も人より派手に損して派手に死に悪臭をまき散らす 部族社会では自分の財産を多く失った族長ほど力のある族長だと言われた

他には?

あんたと違い俺には何もない それも殺す理由の1つだ

リチャード

俺をベノと呼べ!

お前が不安を感じるのは役割も居場所もないからだ だがそれは誰の責任だ? お前が憎むべきものなどろくにない よく考えろ

考えろ…

暴力には理由が要る

真実が この世界には他者しかいないんだ ある日気づいた 人生最大の発見だ 俺は他者に囲まれてる すべて交渉 ビジネスランチ あいつらの姿 俺の姿 外の道で光は俺を通り抜ける 俺は可視光線を透過させてしまう 他者について考えた 人々はなぜ成功した? つまり… 銀行 駐車場 航空券 コンピューター 語り合う人々であふれかえるレストラン 買い物でサインする人々 革のホルダーに入った店用の控えにサインしお客様用控えを受け取りカードを財布に戻す そういう連中だ 検査してくれる医者がいるような連中だよ 奴らのシステムの中で俺は無力 意味がない 無力なロボット兵士になれとあんたは命じた 俺は無力になっただけ 女の靴にも華やかな名前がついているのに 図書館の裏の公園にいる人々 陽光の中で喋ってる

犯罪は無分別だ 社会的抑圧がお前を追い込んだのではない 理屈っぽい話はイヤだ 誰も金持ちに反対なんじゃない “あと一歩で金持ちになれる” 皆そう思う 違う… お前の 犯罪は頭の中にある 食堂で撃ちまくるバカと同じ 壁や床を飛び交う弾丸 あまりに無意味で愚かしい お前の銃も非現実的 名称は? 銃身の上の部品は? 何の役目が?

分かった そういう男らしいことを俺は知らない あんたは経験豊富だ 俺は先読みができない 人間として必死なだけ

暴力には責任が伴うべきだ 目的が必要だ

何やってる?

分からない きっと何も 俺の前立腺は非対称だ

俺のもだ

どういう意味が?

意味なんかない 害はないよ ただの変異体だ 心配しなくていい まだ若いんだ 前立腺に従うべきだった 自然のパターンから“元”の動きを読もうとした そうだろ? 木の年輪やヒマワリの種の数学的な性質 星雲の渦の巻き方 俺はバーツで学んだ 自然とデータの調和をあんたに教わった あんたは加虐的なまでに正確に分析した だがあることを忘れた

何を?

歪んだものの重要性だ 均一でないものの存在 美しいバランスばかり求めた 完璧に均一で左右対称 そうとも 俺にはあんたが分かる 元の気まぐれさを追うべきだった クセがあって歪んだ形

異形なところ

あんたの前立腺に答えがあったんだ やはりあんたを撃つ そうしないと俺の人生は無意味になる 図書館の裏にある公園で仕事を終えてテラスのテーブルを囲む人々 彼らの声が響くのを聞き殺したくなったことは?

ないよ

パニック障害の発作なんだ 何年も怒りを抱いてきたからな だがそれも終わる 死んでもらおう

俺の状況は一日で大きく変わった

俺には病気が あんたには強迫観念がある イカロスは落ちた 自業自得だ! 太陽の熱で溶けた 1メートル落ちて死ぬ あまり英雄的じゃないな もし足の指の水虫が俺に話しかけたとする “あんたを殺せ”と あんたの死は正当化されるんだよ あんたの部屋や家賃のせいで 毎日の健康診断のせいで 健康診断を毎日などふざけてる バングラデシュの人々に必要な空気を奪うリムジン それだけでも十分だ

笑わせるな

笑わせるな?

お前は他人の心配などしたことないくせに

なるほど あんたが呼吸する空気や考え方もムカつく

水虫がお前に話しかけるのか? 声が聞こえるのか 神の声が

あんたはもう死んでいる 死人も同然だ 100年も前にな 何世紀も前に死んだ王たち 奇妙な服でマトンを食べる王族 マトンなんて言葉使ったこともない マトン 俺のことを癒し救ってほしかった 救ってほしかったんだ

 

『コズモポリス』


機動隊員の一斉射撃だと?

西側部隊がデモ隊を虐殺中だ 仲間を撃ってるのもいるぞ

前代未聞の同時ゴーストハックだ 信じられんがそう考えるしかない 100名を同時に操る技術は存在しない

実行犯まで皆殺しだ 攻撃の根拠が何か機動隊の回線を調べろ

スターターらしきログがあるが

ではハックではない ウイルスだ

だがシーケンスに何も出ねえ

自己消滅するスタックスネット型だ 集団を操るためのパッケージ化された行動を送っている奴がいるはず お前か

 

少佐が射殺したジンジ・ベッカ・アル・サイード博士 カルディス人だがクザン王立大学を首席で卒業 同国の水輸入の立役者で暫定政権時代から活躍してた

が てめえの民族が世界から見捨てられたのを悟ってテロに加担か

動機はあるし優秀だがハッカーではない こいつをパッケージ化した人物がいる

現場で押さえたあの少女は?

名はツダ・エマ 戦災孤児の17歳 電脳ネットゲームのヒットメイカーでソフトの権利名義はティンマン

ティンマン… ブリキの木こり…

何だ? そりゃ

この娘が10代のスーパーハッカーだとして事件のどこに当てはまる? まさかこいつが少佐の追ってた相手か?

彼女のゴーストにダイブすれば分かる

 

私に枝をつけてわざと捕まったか? ファイヤースターターとは何だ? 本当にハッカーの名か? 情報部がお前を欲しがっている 軍事法廷に司法取引はないぞ

潮の香りがする 私たちは勝手に海に近づくこともできない プログラマーは武器と一緒で法律で自由な移動を禁止されてるから

やはり組織のハッカーか 目的は何だ?

昔のガラス職人は自由がなかった ガラスは政府の資金源だったから ガラス職人が他の国に行くときは両目を潰された

亡命? それで虐殺騒ぎを?

電脳は人を幸せにすると思う? あなたの記憶は確か? それとも誰かに植え付けられたもの? マイクロマシンベースの電脳化が実現したとき世界中の専門家が警告したわ 偽りの記憶が犯罪に使われるって どの組織もその技術を欲しがってる 私の技術を

記憶操作の技術を確立したってのか?

あなたの記憶も… もしかして…

今ここでこいつのゴーストに潜る

だと思ったぜ ウイルスの正体も不明なんだぞ 感染したらどうする?

こいつの電脳ごと吹き飛ばすわ 逃亡目的の虐殺をやらかすハッカーなんて暗殺対象にしかならないでしょう?

ダイブ中にかよ? お前の電子戦術って変態的だな

超ウィザード級と言ってちょうだい

ウィザード… 魔法使い… 帰れない魔法使い…

ライン越えして一気に潜るわ

マニュアル無視ね おい 変だぞ お前がハックされてる! 経路はそいつの電脳だ! どうなってる? ただのバックファイヤじゃねえぞ!

エマ あぶない エマ

貴様…

少佐!

ごめんなさい エマ ごめんなさい いいの 私が望んだことだから 泣かないで ブリンダ

ゴーストがふたつある

 

NPOとキャンプ… それと外務省か… 兵器開発審議会か ハリマダラ社へのサイバーテロはそいつが目的か?

次世代兵器の開発は国内生産か国外開発かで議論されてきた 事件で国内生産が打撃を食うなら国外派は大喜びだ

あったぜ 電脳化障害の治療を行うNPO 戦時中にクザン領内の難民キャンプで電脳化と学習装置の普及を行ってる

国内はどうだ?

例の娘が同じNPOの治療記録でヒット 電脳化拒絶症候群 戦災孤児の施設で電脳化を拒んで脱走したらしい

電脳化を嫌がることが病気?

大戦後厚労省が出した電脳化白書によれば拒食症と同じ分類さ

知らなかったな

電脳化ビジネスはバカでかいカネの流れを生んだんだ それが嫌だというやつは病人扱いされても不思議じゃねえのさ

本当に多重人格者って可能性は?

人格が分裂してもゴーストはひとつってのが常識だがな

問題はそのNPOが軍事開発によってリードされた企業取引にどう関係したかだ 戦時ビジネスに関わった軍人と企業両方から攻めろ

 

故郷が懐かしくなったか?

参考人を連行しただけだ クルツ中佐

ツムギが待機中だ お前が潜りたければそうしろ ゴーストがあればだがな

どういう意味?

私は席を外す 委員会メンバーとしてハリマダラ製品の検査に立ち会うのでな

まだ出世願望に憑りつかれているのか?

お前がやらずに逃げ出したことだ

久しいな 草薙 こうしてまた一緒に働けるとは 彼らは君の部下かね?

ええ バトーにトグサ こちらはツムギ・ドクロ 2人とも電子戦の技術士官よ

2人って? 義体を共有してるのか?

一卵性双生児の二重義体だとよ どうやって動いてんのか俺にも分からねえ

すごいのがいるんだな

それでは始めよう やはり戻ったのは義体だけだ

どういうこと?

彼女はクルツ中佐付きの電子戦技官だ 彼女は特殊なニューロチップ型電脳を持つハッカーを探索していた 通称スケアクロウ ハリマダラ社を襲ったサイバーテロの容疑者だ

スケアクロウ… 今度はカカシか…

私たちの結論では戦後の技術をベースとした特殊なスパイだ 推論を構築したのはエマでね 彼女は自分と同じ障害を持つ人物を想定した 少しづつ脳をニューロチップに置き換え体を義体化せねば生きられない

彼女自身がその障害を?

人格は希薄化し補助電脳なしでは自我を保てない そういう障害を自らの特質としたのがエマでありスケアクロウだ エマは高度電脳化による自我構築を行っていたがスケアクロウは違う 希薄な人格の代わりに他者のゴーストをダビングし義体を奪って本人になりすます 知恵のないカカシに偽物の脳を入れるようにな

マジかよ

つまりこいつが

義体はエマだが動かしているのは通常の3分の1ほどの大きさしかないニューロチップで高度電脳化された男の脳だ

私がダイブしたのはカカシにダビングされた娘のゴーストだった

本人の脳はどうしたんだ?

ゴーストダビングで劣化した脳だ 処分されたか実験用に切り刻まれたか

そんな

かわいそうなエマ ごめんなさい いいの ジュニア 怖がらないで 必ずライオンが来るわ 勇気を持った人たちが

お前は何者だ? 所属機関を言え

僕はカカシ 脳がなくなっていく 私はブリキ 心がなくなっていく

どっちがしゃべってんだ? 本人か? ダビングされたゴーストか?

ブリキ娘 カカシ男の名を言え 彼の名はブリンダ・ジュニア お願い 彼を責めないで

戦後の養護施設でヒット ここにも例のNPOが関わってる ブリンダ・ジュニア 32歳 電脳化の後職業紹介所で会計士に 人格が希薄でも知能テストで200桁の数字を2秒で記憶してるぜ

典型的な特殊認知能力者だ どの機関がハッカーに仕立てあげたか特定しろ

了解

私があの男のゴーストにダイブするわ

ダブルゴーストの実例は世界でも数件だ どんな危険があるか分からない

二つのゴーストのどちらに動機があるか突きとめたいの

エマを疑うのか? 彼女は犠牲者だ

それを確かめる バトー 逆侵入に備えてディフェンダーを頼むわ

相手が2人ならこっちも2人か

トグサ 記録をコピーさせてもらえ

了解 すみません 親父から電話で 久しぶりだな 親父 ああ

バトー トグサを拘束しろ

分かった 俺がライオンになる

まだマテバかよ

動くな

少佐!

行こう

何てこった 通信にスターターのログを発見 例のウイルスだ

ニューロチップ内でウイルスを不活性状態にしていたか 予想外の侵入速度だ 敵意を抱いた記憶と目の前の対象を結合し瞬間性の疑似記憶を植え付けるのか

ウイルスのホストがカカシ男でパッケージはトグサの脳だな?

ああ だが感染経路がいやに選択的だ 少佐の周囲だけ感染している

発症を操作できるウイルスということか?

スターターのスイッチを入れる第三者がいなきゃ不可能だ つまり被害をコントロールできるウイルスってことか

ならば軍事用だ 昨日の感染データを再解析しろ 追うのはウイルスじゃない スターターを持つ敵だ

“私は死んだ後でも生き続けたい”

隠しデータ?

“私たちは620通りの理由により選択の自由のない電脳化に反対します ひとつ 私たちは電脳内に存在する第3者により改ざんが可能なソフトウェアの脆弱性を指摘します ひとつ 私たちのゴーストと呼ばれる主体的意思の総体は電子的手段による記憶の改変によって変調をきたします”

感染も侵入も受けずにいられる世界があると思っているのか? ツムギ 生きてる? 逃げたカカシの脳をシュミライズするわ 手伝って ツダ・エマのゴースト侵入キーを持ってるでしょ? バックドアを流して

なるほど スケアクロウの電脳構成を基にワクチンらしきものを作るか

“ひとつ 私たちの記憶は現時点で17パターンの手段で改変が可能です”

クソ! 少佐! 何で俺のゴースト侵入キーを使って止めないんです?

無駄よ ブリンダがやらせない

僕は誰にでもなる たくさんのゴーストを入れて消した 僕も消えた 僕は誰?

501機関も攻撃対象だったのか? 君は犠牲者じゃなかったのか?

他に方法がなかったの

何が目的なんだ?

消えないで エマ 2人で死んだ後も生き続けましょう 海が見えるよ エマ

進展は?

ブリンダ・ジュニアをスカウトしたのは陸軍情報部ホズミ大佐 スケアクロウってのは旧調査部で考案された作戦でゴーストダビング装置が開発された頃のものだ ホズミ大佐は外商サイドを開始 主力兵器検討委員会に参加 だが間もなく委員を外れ代わりに国防省の北原副大臣の推薦で501機関のクルツ中佐が後任に

軍人同士の椅子取りゲームで501機関がホズミの弱みを握ったな

“ひとつ 私たちは偽りの記憶によって殺人自殺その他の犯罪的行為を強制させられることを…”

ボットはどっちが作成した?

不明だ ただ陸軍情報部は巻き返しのため検討委員会に干渉 そのどこかで2人のハッカーが互いを認識したんだろう

ハリマダラへのサイバーテロが接点か

あれが奴らの仕業という証拠はない ただしホズミ大佐は兵器開発の国外派でハリマダラは国内派の牙城だ

エサを撃ち殺した男は?

クザン水企業カルテルの殺し屋だ ホズミ大佐は相当ヤバい橋を渡ってる

大戦中クザンに駐留した際戦時ビジネスを盾に内政干渉を行ったんだ もし国内派を抑えられず約束した利益を提供できなきゃカルテルは大佐に報復する

スターターの解析は?

特定できず ただ9課がドミネを実行していたにもかかわらず地上からビル内への感染経路が不明だった点で答えが出た C4ISR用回線だ

軍の情報通信システムか

真相が見えてきたな スターターを起動させたのも回線をつなげてVIPルームのSPを感染させたのもホズミ大佐だ

狙いはSPが撃った相手

兵器国内開発派の北原副大臣だ

一人を殺す隠れ蓑に虐殺を?

根っからの戦争好きなのさ

現場でブリキ娘を狙撃した理由は?

ブラフよ 私たちを排除し安全にブリキを501に送り込みたかったのね

9課への引き渡し要求も隠れ蓑か

あっさり退き下がったのはそもそも501が狙いだからよ ツダ・エマという反電脳主義者を虐殺騒ぎの主犯にするために

ハリマダラ 副大臣 501 3面作戦で全て潰す気だった

ダビングされた娘のゴーストは? あれに意思がある場合利用されたのが分かってて何でホズミに従う?

状況だけ見れば少佐が追ってた相手はカカシ男ってことになるが

ウイルスの作者とは限らない ホズミはブローカーがいると言った それが本当ならウイルスを作って売った者がいる そいつが獲物だ

全ては推測だ 現時点で俺たちが確証をつかむ方法はひとつしかない

トグサの位置は確認したな 経路上に集合 カカシ男と娘 ふたつのゴーストを我々が確保する

 

待て どこへ行く気だ? 止まるんだ

遠くに行くって約束したんだ さよなら

粉々じゃねえかよ

ニューロチップ式ならまだ生きてる

“僕たちは生き続ける”

転送ではなくゴーストダビングだと?

ハリマダラの試作機体だ!

少佐!

あれに2人のゴーストがダビングされた 止めるぞ

てめえの命を置き去りにしてどこへ行くってんだ?

海だ

どこへも行かせない ここで終わりだ 捕まえたぞ

何だ?

陸軍情報部だ 砲撃を要請しやがった!

知覚系を切断しただと? しまった! 義体信号域を捨てた 認識系 記憶野 自分を構成するネットを捨てて 自分のゴーストすら切り捨て何もかも意味消失させておきながら生きるだと?

さよなら

 

9課の部長と同じだな 埋められたものを暴いて回らないと気が済まないのか?

お前がやらずに逃げ出したことだ

どうせ何も変わらないぞ 草薙

私たちは独立構成部隊だ システムから自立しパッケージ化されない本当の単位としての人格を所有する 我々が最優先ラインに承認されたときにはスキャンダルを恐れて馴れ合うクソ野郎どもを一掃してやる

私もそれに含まれると? お前のチャンネルは昔のままだ 古巣に戻りたくなったらいつでも連絡しろ

 

結局俺たちがフォローできたのは2人の反電脳主義的ハッカーと水企業の哀れな女が利用されたってことだけか

多数の死者に値する事件性を求めてもあるのは戦時ビジネスの亡者と捨てることに取り憑かれた男と娘だけよ 今はまだね

男と娘 どっちが主体だったんだ? そもそもまともな意思なんてあったのか?

少なくとも私の侵入を防いだときはね

だが行く当てのない逃亡の末あんな兵器にゴーストを移すしかなかった

あの思考戦車の電脳 大規模な出力系も備えてたわ 彼らが自分を構成するものを切り捨てたのは最後に残ったものをネットに出力するためだとしたら…

それが亡命先だってのか? ゴーストの最後の欠片をネットに流して… 可能なのかそんなこと?

研究はされてるけど実証は不可能よ ただ彼らのゴーストロストの瞬間ひとつになった気がした ふたつの命がひとつに 

らしくねえな ゴーストはこの世で最も独立した存在だ 操作されたものでも本質は永遠のスタンドアローンさ 俺たちの部隊みたいにな

そうね

 

『攻殻機動隊 ARISE 4』


写真は今でも傑作だ
気の毒な怪物ですね
主演のカーロフに子供たちから手紙が来た 怪物に同情したんだ
写真は死人を改造して作り上げた殺人者だ つまりこの怪物のかもし出す雰囲気が死に関する記憶と結びついているんだ 究極の怪物だよ

ニック トニー スティーブ 火をつけろ
物音がしたぞ
眉間を狙って撃て いい腕だ よし死んだぞ 死体を燃やそう
最後のクレジットの後ろに映る写真は主人公ベンの死体です ただの肉の塊のようにぞんざいに扱われる 観客が見守ってきた人物が冷酷な扱いを受けるのです 死体を運ぶのにもフックを使い決して体に直接触れようとしません
ランディ 火をつけろ

「共産主義者の謀略のように若者のモラルを破壊する写真だ」と非難された 我々もひどいことをやった 「ミライの大虐殺」はいい例だと思う
我々は住民を一ヵ所に集めました そして上官に「殺せ」と命じられたんです

ヒッチコックの作品は高度なサスペンス 名職人の技を駆使して作り上げた作品だ 映像を巧みに操り観客を意のままに導くというものだ 観客は安心して怖がって見ていられる でもそうじゃない作品もある 作品を見てる時 その作り手を信頼できない 「おい 待ってくれ!」 「何だこりゃ!」とね 「この写真は変人だ!」
女性を家畜のように殺そうとするんです
いつまでもやってる
写真はいつも何が一番怖かったかを思い浮かべる モスラもゴジラも怖くなかった 怖かったのは人間さ
社会的な悪夢とは?
悪夢というものは必ずいつか覚める 歴史的な悪夢もやがて終わるがその影響は残る もちろん写真の狙いは目覚めても続く悪夢だ 目覚めた時も悪夢が現実に入り込んでくる

好景気の時は上り調子で好きな物は何でも手に入る しかし家庭生活というのは評判ほどのものではなかった 物を持っていても意味がないし偽りの幸せだという思いがつきまとう 物があるだけであとは深く考えないからだ
彼らは単に本能だけで行動しているのです 家族だと思って同情してはいけません 今の彼らに感情は残っていません 見つけたらその場で殺すのです!
まだいるわ
我々がまだここにいると知って
それは違う 奴らは理由こそ覚えてないがこの場所が好きなんだ
彼らは何なの?
我々さ いつかは死ぬんだから「生ける屍」だ

「人間は考えすぎる動物だ 理屈ばかりで肉体や本能を軽視してる」 頭でっかちで中身がない
肉体と社会は密接に結びついている 私は肉体への回帰を重視する 現代社会は肉体からの解放ばかりが求められる 精神と身体を切り離し肉体を無視しようとしている 現実の中心に肉体を置かない考えだが それは間違いだ 表面的には悲劇らしく見える しかし 心の底では観客も写真により「解放」された人々の味方だ そこがミソで実はハッピーエンドなんだ
写真は鋭い洞察力を持って訴えてます 古い秩序が新しい秩序に変わってもどちらも同じくらい問題を抱えていると 簡単に問題を解決する方法などないのです 観客に考えさせたいのは社会生活には「苦痛」がつきものだということでしょう 観客はじっくり見ることができます「苦痛」と「解放」が入り混じった表情を 「苦痛」と「解放」は表裏一体なのです



大尉 ウォルター・E・カーツの名を?
名前だけは
特殊部隊の作戦将校だ
大尉にテープを聞かせろ
よく聞くのだ
10月9日 04:30時 ピーター地区
カンボジアからだ カーツ大佐の声だ
私はカタツムリを見ていた カミソリの刃の上を這っている それが私の夢だ それが私の悪夢だ ゆっくりと這ってる 鋭いまっすぐな刃の上を 死にもせず…
1968年12月30日 05:00時 受信 ズールキング地区
奴らを殺すのだ 焼き殺すのだ ブタというブタを 牛という牛を 村という村 軍隊という軍隊を 奴らは私を“人殺し”と呼んでいる 人殺しが人殺しを責める? 欺瞞だ だが我々は嘘つきどもを許している 肥えた奴らめが! 私は憎む 奴らを憎む
カーツはわが国が生んだ誇るべき軍人の1人だ 非の打ち所がなかった 人間として優れてて心が温かくユーモアを解した 特殊部隊に入ってそれから以後考え方と作戦手段が変わって不健全になった 不健全に…
彼はカンボジアに潜入し彼を神と崇める現地人の軍団を率いて絶対服従を誓う彼らを意のままに動かしている
君を驚かせる話はそれだけではない カーツ大佐には殺人罪で逮捕命令が出ている
なぜです? 誰を殺したんです?
彼は数名のベトナム人スパイを処刑した 二重スパイだと決めつけ独断で処刑した
ウィラード この戦争ではいろいろな混乱が生じている 権力と理想 古い道徳観と現実の作戦行動 現地人の間に入り自ら神となるのは大きな誘惑に違いない 人間の心には戦いがある 合理と不合理 善と悪 善が勝つとは限らぬ 時には悪が勝ってリンカーンの言う“心の天使”を打ち負かす 誰にも理性の限界がある 君にも 私にも カーツは限界に達し完全にイカレてしまった
その通りです 完全にイカレてます
君の任務は哨戒艇でヌン川を上りカーツの情報を集めながらその行方を追って発見次第いかなる手段を使おうとも彼の軍団に潜入 彼の指揮を断つのだ
断つ? 大佐を?
彼の行動は良識による抑制を失い人間の行いとしていささかの容赦の余地もない その彼が軍の指揮を取ってる
抹殺するのだ 私情を捨てて
分かってるだろうがこの任務は存在しない 現在も 未来も

すべてが狂気を物語っていた 死体だらけだった 北ベトナム人 ベトコン カンボジア人 おれは彼の命令で生かされていた ゆるやかに迫る死の匂い マラリア… 悪夢… 川の終点だった
君は考えるか? “真の自由”とは何か 他人の意見にとらわれぬ自由 自分からも解き放たれた自由 彼らは理由を言ったか? ウィラード なぜ私を殺して私の指揮を断ち切るかを
私の任務は軍の機密です
今更機密ではなかろう 彼らは何と?
こう言いました あなたが常軌を逸して完全におかしくなりあなたの作戦手段が不健全だと
私の作戦手段が不健全?
私の目には作戦手段などどこにも…
君のような人間が来ると思っていた 君は何を期待してた? 君は殺し屋か?
私は軍人です
どっちでもない 使い走りの小僧だ 店の主人に言われて勘定を取りにきた

タイム誌 週刊ニュース雑誌 1967年9月22日号 第90巻の12号 “戦争の見通し 米国民はベトナム戦争の行方に悲観的である しかしかつてない規模で行われた状況調査の結果によると2年半前の兵力増強以来現地での米軍の優位は目に明らかである ホワイトハウスの見解は以下の通り 「敵はいずれ戦闘不能の状況におちいるだろう」” 大嘘だ “ジョンソン大統領は米国民がこの楽観的見通しを拒否することを懸念 報告書の公表を思案中 しかし大統領はこの結論に気をよくし報告書作成者たちにその内容を折に触れ話題にせよと指示した” タイム誌 日付不明 “ロバート・トンプソン卿 マラヤ連邦の共産ゲリラ掃討 現RAND社コンサルタント ニクソン大統領の依頼でベトナムの現状を調査分析 先週の卿の報告によると「状況に好転の兆し」「光が見えてきた」と” 君に光が見えるか? 君は自由だが監視は続ける 暇な時に読め なくすなよ 逃亡を試みたら射殺する またいつか続きを

“空ろな人間たち 互いにもたれ合ってるわら人形 頭の中にはわらが詰まってる ひからびた囁き声は低くすべて無意味 枯れ草を渡る風 破れガラスの下を走るネズミの足音”
超越してる
“輪郭のない形 色のない影 麻痺した力 動きのない身振り”
何を言ってるか分かるか? ごく基本的な弁証法だよ 整数だけで分数なんか関係ない 宇宙旅行に分数が要るか? 宇宙着陸に4分の1とか8分の3とか言うか? 金星に行く時は弁証法物理学が役に立つ 弁証法理論には“愛”か“憎しみ”しかない
ノラ犬め! 貴様はノラ犬だ
これがクソッタレなこの世の終わり方だよ “バーンとじゃなくメソメソと”おれもオサラバするよ

将軍たちがおれの見たものを見たら彼を殺すだろうか もちろん殺すだろう 彼の家族が今の彼を見たらどうするだろう 彼は家族を捨て自分をも捨てた 彼ほど苦悩に引き裂かれた男をおれは知らない
私は地獄を見た 君が見た地獄を だが私を殺人者と呼ぶ権利はない 私を殺す権利はあるが 私を裁く権利はない 言葉では言えない 地獄を知らぬ者に何が必要かを言葉で説いて分からせることは不可能だ 恐怖… 地獄の恐怖には顔がある それを友とせねばならぬ 恐怖とそれに怯える心 両者を友とせねば一転して恐るべき敵となる 真に恐るべき敵だ 特殊部隊にいた頃の話だ まるで数十万年前に思える 我々は収容所の子供たちに注射をした 小児麻痺の予防接種を行って収容所を出た 老人が1人泣いて後を追ってきた ベトコンが収容所にやって来て子供たちの腕を切り落としたのだ 腕が山のように積まれていた 小さな腕が 今でも覚えているが私は声を上げて泣いた 老いた女のように 歯をむしり折りたい気持ちだった あの時のことを私は決して忘れたくない 私は悟った ダイヤモンドの弾丸で撃たれたように ダイヤの弾丸が額を貫いた 私は驚嘆した 何たる資質を持った連中かと そんなことを行う意志 完ぺきで純粋で明確で一切迷いがない 私は悟った 彼らが
我々より強いことを 彼らは化け物ではない 訓練された兵士なのだ 
信念を持って戦っている妻子ある男たちだ 愛を知りつつ力を備えた男たち 彼らには手を下す力がある 私が彼らのような兵を10個師団持っていたらこの戦争はたちまち片が付く 持つべき兵は道義に聡く だが同時に何の感情も興奮もなく原始的な殺人本能で人を殺せる男たちだ 理性的判断を持たずに 理性的判断が敗北を招く 私は気がかりだ 息子が私の行動を理解できるかどうか もし私が殺される運命にあるのなら誰かをやって息子にすべてを伝えてほしいのだ 私が行い君が見たすべてを 何よりも嫌悪すべきは偽りが放つ悪臭だ 君が私を理解するなら君がやってくれ

我々は若者に殺人を教える だが彼らの上官は戦闘機の機体に“ファック”と書くことを許さない “ワイセツだ”と

地獄だ 地獄の恐怖だ
「爆弾を投下してすべてをせん滅せよ」


『地獄の黙示録』


 

しかしそれは不快な傑作であつた。何かわれわれにとつて、美と秩序への根本的な欲求をあざ笑はれ、われわれが「人間性」と呼んでゐるところの一種の合意と約束を踏みにじられ、ふだんは外気にさらされぬ臓器の感覚が急に空気にさらされたやうな感じにされ、崇高と卑小とが故意にごちやまぜにされ、「悲劇」が軽蔑され、理性も情念も二つながら無意味にされ、読後この世にたよるべきものが何一つなくなつたやうな気持にさせられるものを秘めてゐる不快な傑作であつた。今にいたるも、深沢氏の作品に対する私の恐怖は、「楢山節考」のこの最初の読後感に源してゐる。(三島由紀夫「小説とは何か」)

 

深沢氏にとって世界とは、それ自身としては何の原因もない「自本自根」のものすなわち無であり、空間の拡がるかぎり時間の及ぶところ、何時はじまって何時終るとも知れない流転である。万象はその一波一浪にすぎない。あらゆる事象は「私とは何の関係もない景色」なのである。このような作家が、作中に登場させる人物たちをあたかも人形か将棋のコマのように扱ったとしても無理はないだろう。(中略)このように深沢氏は、近代の人間中心的な思想とはまったく対蹠的な地点に立っている。これは深沢氏が徹底したアンチ・ヒューマニストであることを示している。(日沼倫太郎「解説」文庫版『楢山節考』)

 

 


信じられないかもしれないが… 死人が人を襲ってる ほっておくと死人がよみがえって人間を殺しその人間もよみがえる
死人の勝ちさ
人間の自滅よ
人間が食料なのです 人肉が彼らのエサになってる 遺体は脳を破壊するか首を切断するように

彼らは人食い種族なのか… 厳密には違う 人食いとは人間同士の共食いです 彼らは人間ではなく共食いもしないので人食いではない 人肉はあくまでもエサなのです 彼らの知能? 思考力はありません その行動は生前の習慣の名残なのです 道具の使用も極めて原始的です 棒などを使うようですが下等動物と同じレベルでの話です 彼らはただ単に本能で動いています 彼らは既に家族や友人ではありません 情感などは持っていない 見つけしだい殺すべきだ

まだいる
俺たちを狙ってるんだ
それは違う かつての習慣でここへ来る
何者なの?
あふれた連中さ 地獄が満員で 祖父が言ってた ブードゥー教を知ってるか? 祖父は司祭だった 地獄が満杯になると死人が地上を歩き始めるんだ

人体の5パーセントを与える ごく少量だから体の回復に支障はきたさない
そんな話は…
バカ者め 黙れ バカめが
皆静かに
救う価値はないがね 生き残ったのはバカばかりだ だがたとえバカでも助けてやる
非論理的な話は聞く価値がない
何が非論理的だ 食料の供給が今の20倍になるんだぞ
供給相手は?
急増中のあの化け物どもだ
正気か?
もちろん 代案でも?
現実的な方法を期待したのに敵にエサを与えるなんて論外だ
ではこうしよう
やつらは都市に大勢いる 手付かずの核爆弾を落とせばいい
冗談を
いたって真剣さ やつらは増え続ける 人間がいる限り
あなたが言うことはとても科学者とは思えない
これは政治の問題ではない これは政党間の争いでもない 経済も停止した 状況は限界まで来てる 生存者は結束しなければ
もうおしまいね
冷静になるのだ! 理性を保つべきだ 論理的に 常に論理的に
科学者は論理を好むが少しも現実的じゃない
常に論理的であるべきだ 選択の余地はない それしかない

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なぜこんなことに

『ゾンビ』


ねえ ととさま あそこで泳いでいいんでしょ?
はっ ああっ
めっそうもございません 泳ぐなどと
うわっ
高貴の姫君というものはそのようにはしたなく駆け回ったりしてはなりませぬ
姫様 こちらの相模殿は姫様を高貴の姫君としてお育て申し上げるべく私が宮中からお呼び寄せいたしたのです
こうきのひめぎみ? きゅうちゅう?
私こんなにお育て甲斐のありそうなお子は初めてでございます この相模 必ずや姫様を高貴の姫君として立派にお育て申し上げます
こうしてヒメは相模とともに高貴の姫君となるべく励むことになりましたが…
よろしゅうございますか このように背筋を伸ばして すっとお立ちあそばして すっと そのままでよろしゅうございます 高貴の姫君ともなればお立ちあそばすのもまれなことゆえ
じゃあ どうやって動くの? 物を取る時は?
そのような場合はこれ このように立て膝にてしずしずとあくまでも優雅に 優雅なものでございましょ? えっ これ 姫様!
うわあ
美しい絵巻でございましょ? これ このようにいたしますと流れるように物語が… あっ!
ほんと 流れるようね
ああ…
しばしお休みくださいませ これほどご熱心に手習いにお励みあそばされるとは 相模鼻が高うございます へえっ! 姫様…
はい ではご一緒にもう一度
うわ 面白い
姫様!
どうですかな? お稽古のほうは首尾よう進んでおられますかな?
み… 造殿
ん?
ご機嫌うるわしゅう お父上様
何と おお これは見違えるほどしとやかにおなりだ おっと いかがですかな? 琴のお稽古のほうは
いえ まだ 始めたばかりにございますれば…
ほう これは!
私の前では何もかもまるで遊び半分なのでございますが ひとたびなさると何事もそれは見事な出来栄えで
そうであろう やはり姫様は天がお下しなされた方 あのような山の中に捨て置く方ではなかったのだ ん?
こうして相模のもと ますますたくさんのお稽古事に明け暮れるヒメでしたが…

おっと まったく何なんだここは 下働きなどいい加減やめたらどうだ 仮にもお前は高貴な姫君の母上なんだから
でもこうしていたほうが落ち着きますからね
お前がそれだから姫様がいつまでたっても… おや どうなされた 今日はいつになくお静かで
あのね お前様
何と そりゃ本当か?
ええ
それはめでたい! 盛大に宴を開かねば
うたげ?
ヒメが大人になったお祝いですよ
そうだ こんなにめでたいことはない
お祝いならみんなも呼んでいいでしょう?
えっ?
会いたいなあ
そうですね いいかもしれないわね
何をばかな! お前は何も分かっていない これがどんなに大事なことか 山の連中などとはもう住む世界が違うのだ 年が明けたらすぐに髪上げと名付けの儀式 そのお披露目の宴を催せば姫様は晴れて高貴の姫君ですぞ
ととさま
いやっははーっ めでたい めでたい そうだ 名付け親は斎部秋田様にお願いしよう これ 誰かあるか? 相模殿 相模殿!
はあ… つまんないな
♪ 鳥 虫 けもの 草 木 花 ねえ かかさま この庭私に下さらない?
え?
私の好きなもの植えてもいいかしら?
ええ ええ もちろんいいですとも あなたの好きなようになさいな
ありがとう かかさま

いやいや いやよ!
そのままでは高貴の姫君にはなれないのですよ
眉を抜いたら汗が目に入ってしまうわ
高貴の姫君は汗をかくようなはしたないまねはなさらぬもの
お歯黒もいや 口を開けると変よ それじゃ笑うこともできないじゃない
高貴の姫君は口を開けてお笑いになったりしないものです
ばかみたい! 高貴な姫君だって汗をかくし時にはげらげら笑いたいことだってあるはずよ 涙が止まらないことだって怒鳴りたくなることだってあるわ
いいえ 高貴の姫君は…
高貴の姫君は人ではないのね!
うわっ

おびただしき数の殿方がお見えでございます
ねえ この宴は私の名付けを祝うものなのでしょう?
もちろんにございます
でもここにこうしているだけでは 私まるでいないのと同じみたい
しかし こうまでもったいぶることもなかろうが
は?
姫だよ おひめさま
その御簾の内に鎮座ましましていらっしゃるかぐや姫とやらの花のかんばせ
噂どおりかどうかひと目拝ませてもらってもばちは当たるまい
そうだ そうだ
い いや それだけはご勘弁を それだけは…
じゃあ何か? 祝いに来てやった俺たちに一度もご挨拶なしか?
そ それはしきたりにございますれば
何だとぉ? しきたりだとぉ?
あっ これ…
本物の高貴な姫君でもあるまいに
な 何をおっしゃる 姫様は…
姫様?
お お待ちください
いったいいくら払ったんだよ その姫様とやらの名付けによ
いいじゃないか そんなことより見せろ
お待ちください
おばけみたいだったりして…
まさか
ぎゃははは

お行き
いいお天気ねえ 庭の草もずいぶん伸びて
ええ でもねっ ここからこうやって見るとまるで違って見えるのよ
え? あら
ねっ 私たちの山みたいでしょう?
ほんと… 森があって 丘があって まあ 私たちの家が
そうなの 茅草が竹林
蓬も木々にそっくり 山の向こうからお月さんが昇ってきそうね
ええ それからあの橋を渡って坂を上ると…

亡くなった?
はい 中納言様は腰の骨を折られ それがもとで…
どうしたの ヒメ!
こんな庭 ニセモノよ ニセモノ! ニセモノ! ニセモノ! ニセモノ! みんなニセモノ 私もニセモノ 私も…
おやめ
みんな不幸になった 私のせいで
ヒメのせいではありません ヒメのせいでは…
いいえ 私のせい ニセモノの私のせいよ
ヒメ
こんなことになるなんて 思ってもみなかったのに
そうよね でもあなたのせいじゃない

ありがたや! ありがたや! 姫! 姫様!
いい加減にしてくださいな あなた
姫様 姫様お喜びください 御門が姫様を宮中にお呼びになりたいと仰せです
えっ?
御門の女御のお一人になられるのですよ そればかりか私にも官位を下さるとか ああ ありがたいことだ!
あなたにはまだ分からないのですか ヒメの気持ちが
お前こそ何も分かっておらん ああ すべてはこのためだったのだ 御門の女御になる この国に生まれた女としてこれほどの幸せがあろうか! これでようやく姫様を幸せにすることができる
お父様 せっかくですがお断りしてください
えっ?
今さら女御などになれません
何をおっしゃいます 姫様の幸せを思えばこそ…
お断りくださいませ
いや しかし いやしくも御門の仰せになることをこの国の者が聞かないわけにはまいりません さあさあ どうかわがままをおっしゃらずに
もし私の申し上げることが御門のお言葉に背いているとおっしゃるならどうぞ私を殺してくださいませ
ヒメ…
もし御門から位を頂くことがお父様の幸せになるのでしたら私は一度御門の許に参りましてお父様が位を頂くのを見届けてその上で死にます

どうしたのですか ヒメ? 近頃は私の所にも来ないで 布を織りかけのままだし 庭も荒れ放題ではありませんか
毎晩のように月を眺めておられるとか いったいどうしたというのです?
何でもありません
いやいや 何でもないはずはない その悲しげな目を見れば分かります
本当に何でもないのです
いや しかし…
私にも打ち明けられないことなの?
私 月へなんか帰りたくない!
え?
帰る? 月へ?
私必死でお願いしたんです どうか居させてくださいって ここに この地に でもだめだって 今月の十五日には迎えに行くって
迎え?
いったい何のことやらさっぱり分からん どうか姫様 この翁にもちゃんと分かるように話をしてくださいませ
可哀想に 何かよほど深いわけがあるんだねえ
私は月からこの地に降ろされた者なのです
月から?
ああ そうだったの
はい
御門がいらした日 ようやくそれが私にも分かったのです そして今月の十五日にはお父様やお母様とお別れして月へ帰らなければなりません
月へ帰る? 私共を置いて? いったいどうしてそんなむごい仕打ちを? これまで姫様の幸せだけを願ってお仕えしてきましたものを
お父様が願ってくださったその幸せが私にはつらかった そして我知らぬ間に月に救けを請うてしまったのです 御門に抱きすくめられ私の心が叫んでしまったのです もうここにはいたくないと
それでは姫様自ら迎えを呼んだというのですか? そ そんな… ひどいではありませんか ああ 何ということだ
でも私は帰りたくはないのです このままでは!
帰らなければよいではありませんか そうです この翁が帰しはいたしません たとえ迎えが来ようとも
もう遅いのです 何もかも! ああ 私はいったいこの地で何をしていたのでしょう ただ誰かのものになるのは嫌だと駄々をこねお父様の願いを踏みにじっただけ 偽りの小さな野や山で自分の心をごまかして でも月へ帰らなければならなくなった今ようやく思い出したのです 私がなぜ何のためにこの地へ降り立ったのか そしてどうして見知らぬこの地の歌をあの歌をずっと以前から知っていたのか
♪ 鳥 虫 けもの
ああ そうなのです 私は生きるために生まれてきたのに鳥やけもののように 帰りたくない
そうだとも 月へなど帰してなるものか 竹の中からこの手でお前を拾い上げたあの日から我が子と思い慈しんで育てたのだ この腕に抱きおしめを替えやれ立ったそれ歩いたと そのたびに天にも昇らんばかりにうれしくて 遅いことなどあるものか ヒメは… ヒメはまだここにこのようにこの翁の手の中にいるではないか 迎えなど追い払えばよい 何人たりともヒメを連れてはゆかせはせぬ! 誰かあるか! ヒメを守る手立てを講ずるんじゃ!
ごめんなさい お父様

♪ まわれ まわれ まわれよ 水車まわれ まわって お日さん 呼んでこい まわって お日さん 呼んでこい 鳥 虫 けもの 草 木 花 春 夏 秋 冬 連れてこい 春 夏 秋 冬 連れてこい
♪ まわれ めぐれ めぐれよ 遥かなときよ めぐって 心を 呼びかえせ めぐって 心を 呼びかえせ 鳥 虫 けもの 草 木 花 人の情けを はぐくみて まつとしきかば 今かへりこむ
そんな続きがあったの
遠い昔この地から帰ってきた人がこの歌を口ずさむのを月の都で聞いたのです
まあ
月の羽衣をまとうとこの地の記憶はすべてなくしてしまいます 悲しみも悩みもありません なのに歌うたびに涙がひとすじその人の目からこぼれるのです その不思議さになぜか私の心も締めつけられて ああ 今なら分かります あの人の気持ちが そしてなぜ私が禁断のこの地に憧れその罰としてほかならぬこの地に降ろされたのかも
ヒメ
あの人は… あの人もまた本当はこの地に帰ってきたかったのです きっと!
まつとしきかば 今かへりこむ “本当に私を待っていてくれるのならすぐにでもここに帰ってきます”
ああ 帰りたい 今すぐに

♪ まわれ まわれ まわれよ 水車まわれ まわって お日さん 呼んでこい まわって お日さん 呼んでこい 鳥 虫 けもの 草 木 花 咲いて 実って 散ったとて 生まれて 育って 死んだとて 風が吹き 雨が降り 水車まわり せんぐり いのちが よみがえる せんぐり いのちが よみがえる
行かないで ヒメー!
待って! 待ってください この羽衣をまとってしまったら私はこの地のすべてを忘れてしまうでしょう ですから今少し
ヒメ
ヒメ
かかさま! ととさま!
ヒメ 私たちも一緒に連れていっておくれ
お許しください ととさま かかさま
さあ参りましょう 清らかな月の都へお戻りになればそのように心ざわめくこともなくこの地の穢れもぬぐい去れましょう
穢れてなんかいないわ! 喜びも悲しみもこの地に生きるものはみんな彩りに満ちて 鳥 虫 けもの 草 木 花 人の情けを…
私を許しておくれ ヒメ!

『かぐや姫の物語』


おはよう ドクター・ユングだ 君を担当する
私の気は確かよ
こうしよう 毎日君の話を聞こう 1~2時間だ
話を?
ああ 聞くだけだ 原因を突き止めよう 私は邪魔をしないから何があっても後ろを振り返らないでくれ 始めよう
病気の原因は何かわかるかな
く…屈辱 いかなる…屈辱にも耐えられないし吐き気を覚える 汗が… 冷や汗が出てくるの 私の…ち…ち…父は…しょっちゅう怒ってた 私に腹を立て…
話をやめたのは何か思い出したから?
わ…わからない
それとも何か見えたのか?
そうよ
何が?
て…手よ ち…父の…父の手だった
なぜ手を?
父がいつも…いつもあとには…父にぶたれたあと私たちは手にキスさせられた

父は母に愛されてないと思ってる
誰がそれを?
天使から聞いた
天使?
頭の中の声よ 私は優秀だとドイツ語で言ってた
天使はドイツ語を話すものさ
人の話を予知する力を授かったわ
医師には有利だ 医師が希望だろう?
無理よ
なぜ?
すまないがしばらく留守にする 兵役だからしょうがない 2週間で戻る
時間の無駄よ お望みの答えなんかできないし腹が立つばかり 私は病んでいないし治療は結構よ やめて
私は…
いいからやめて!
悪かった
戻りたい
望みなら
戻らないと

食べ物で遊ばないで
満腹よ
そう? 院長に言うわよ
好きにして
ザビーナ
院長どの
暇を持て余してるなら君にも仕事をしてもらいたい 興味は?
自殺と惑星間移動よ
ユングが戻ったら相談するといい
彼には2度と会いたくないわ
世話を焼かせないで

なぜ夜がつらい?
怖いの
何が?
部屋に生き物がいて…話せるネコがベッドにいるの 昨夜は…耳に何かささやいたけど聞き取れなかった そうしたら…背中に感じたの ぬるぬるした何かが…まるで軟体動物が背中で動いてるのを でも振り返ると何もいなかった
背中に感じた?
ええ
裸だった?
そうよ
自慰の最中?
ええ
父に初めてぶたれたときは?
確かあれは…4歳くらい お皿か何かを割ったの ええ そうだった 父は言ったわ 小部屋に行って服を脱げと 父は部屋に入ってくると…お尻を叩いたわ すごく怖くておもらしをしたら…またぶたれた それで私は…
その時感じたことは?
よかった
聞えなかった
気持ちよかった 興奮したわ
そのあとも?
そうよ やがて父が“小部屋に行け”と言うだけでおもらししたわ 兄がぶたれたときも興奮したしおどかされるだけで十分だった 横になって自分を慰めずにいられなかった 学校でもすぐに同じことがおきたわ 屈辱を受けるたねを探してた ここでも同じよ あなたが杖でコートを叩いた時興奮して部屋に戻りたくなった 望みはない 私は不道徳で…汚らわしくて堕落している 一生入院よ

まだ治療を?
ええ 新たな発見もあります たとえば子供のころの排便法です 片足のかかとに体重をかけて排便しながら止めていた 至福を味わったそうです
いい例だ 肛門期に執着する患者は面白い話が多い 神経質できれい好きかつ頑固で金に厳しいが君の患者もだろう
いいえ 彼女のマゾヒズムは肛門への執着より根が深い
関連があるだろう
彼女は無秩序で激情的で理想に執着している
ロシア人の気質かもな 処女なのか?
そのはずです そう思います 間違いない

ワグナーは好き?
曲も人も
ジークフリート伝説では純粋で高潔なものは近親相姦のような罪から生まれる
不思議だな
何が?
私はすべての出来事は偶然でないと信じているがその伝説について執筆中だ 本当だ
オペラは?
「ラインの黄金」
私も好きよ 答えて いつか精神科医になれるかしら
なれるよ 大学での評価もいい 君のような人が要る
病んだ人?
正気の医師には限界があるからね

今も父親が怖いと?
まともな人なら誰でも父を怖がる 怖い人物だ
入院させたがるのは君の身を案じてとは思わないのか
なあ 全盛期をすぎた年寄りの家長は普通何を望む? 孫娘や孫息子 そうだろう? 昨年の夏俺は父に 1人どころか2人の孫を見せに行った 妻の子と立派な愛人たちのうちの1人の子だ さらにだ よく覚えていない女との子供も生まれると聞き父は激高した それで俺を施設に監禁することにした 子供は?
娘が2人
母親は?
同じだ 一夫一婦制をどう思う?
神経症者にはストレスが大きすぎる
市民社会の潤滑な機能に貢献するため抑制の必要性を感じないと?
おかげで病気になった
理性ある社会では性の抑制が実践されている
病院が繁盛するわけだ なあ 患者の人気を取りたかったら患者の聞きたい話をしろ
人気は関係ない
ヤりたければ必要だ 短い人生で悟ったのは何も抑制するなということさ

患者と寝たことは?
まさか 転移や逆転移の誘惑に抗うのは重要なプロセスだ
転移が起きて患者が俺に固着したときは一夫一婦制の悪い表象だと説明した 俺と寝たいと思ってもいいが他の大勢とも寝たい欲求を認めろとね
否定したら?
病気の一部だと信じさせる それが人間さ 医師が真実を話さないと
フロイトによると神経症は性衝動に起因する
彼は自分がヤれないから性に執着するのさ
そうかもな
人類がどれほどゆがんでいるかがわかる 数少ない悦楽の行為がヒステリーと抑圧を招くとは
だが自己を抑圧しなければ破壊的な力が解かれる
俺らの役目は患者の精神の開放だ
患者の自殺を助けたと聞いたぞ
自殺を決意した女に失敗しない方法を教えて愛人にならないかと持ちかけた 女は両方やった
それが治療のつもりか
自由は自由だ

ワグナーのオペラでは罪とされるものを通して完全が成り立つわよね それは反対同士がぶつかり生じるエネルギーでしょ 私たちは医師と患者である他に国籍や人種も暗い部分も違う
暗い?
破壊的な力の衝突だけが新しいものを生むの 入院当初の私は性衝動の病気だった だから私の研究対象は性衝動に根ざしてる なのに私に性体験がないのは問題だわ
法学生は犯罪を犯さないぞ 行動に出るのは男性だ
女性の中にも男性的な部分が潜んでいるのよ
たぶん…君が正しい
行動に出たければ私はあの建物の出窓の部屋にいるわ

何を待っている? 彼女の望みどおり息が止まるほど突いてやれ 単純な快楽を拒むな
快楽が単純なものか
単純さ 複雑にしてるのは自分たちだ 父は成熟と呼び俺は降伏と言う
衝動に従えば降伏だ
降伏しろ 呼び方はどうでも 機会を逃すな それが処方だ
医師は私のはずだが
効果的な治療さ
君の分析はもうすぐ終わる
自分の分析はどうかな

グロスにかかりきりで他の患者をおろそかにしてる 誘惑がうまい 言うことも正しい 強迫神経症で かなり危険だ
あなたには説得力がないと?
もっと悪い 彼の説得力が恐ろしい 一夫一婦制についてもなぜ本能の抑制に励むのか問い返してくる
どう思うの?

“ドクター・ユング” おかげで健康体で生き延びていますが父には死んだとお伝えください オアシスで水を飲むことも忘れずに オットー・グロスより

私の言うことを誤解しないでくれ
何?
やめるべきだ すぐに 妻がいる 彼女をだましてるんだ だまし続けるのか?
別れたいの?
違う
奥さんとのときはどうなのか教えて
ひとつ屋根の下に住むと習慣になる いつも愛情が通う
私とは別物? 別の国の違う出来事? 私とのときは激しくして 罰して欲しいの

勘違いしないでくれ 君が精神感応や超心理学を研究することに異存はない しかし我々の分野は争いが絶えない 神秘主義に迷うのは危険だ だから科学の枠にとどめる必要がある どうした
賛成しかねます なぜ線を引き他の分野を除外するのです
我々を蹴落とそうとする敵は大勢いる 性理論の基礎が揺らいだとたん彼らはそこを攻めてくるだろう そんなテーマと関われば身の破滅だ
予想通りだ こういうことが起きる気がしてた
何のことだ? 本棚の木が鳴っただけだ
あれは外在化現象という事象です 外在化現象です
ばかな
横隔膜が熱くなった もう1度発生する すぐにまた来ます
こういう類いを言っているんだ
ほら
あれは…冗談だろう
解明されない謎は多いのです
あやしい分野に踏み込むのは危険だ テレパシーや音の鳴る本棚 妖精など意味がない 論外だ

レールモントフの詩が頭を離れないわ “囚人が鳥をカゴから逃がしようやく幸福を味わう”
なぜその詩が?
たぶんこうよ 望み通りに医者になれたら人を自由にしてあげたい あなたみたいに

性本能と死の本能の類比を説明してくれ
フロイト教授は性衝動は快楽の追求から生れると言う でもそれならなぜ抑圧されることが多いのか…
君の理論ではそれを自己破壊と結び付けていたね
もし性行為が相手と融合することなら個は個の中に没入し自己は破壊されてしまうわ だから自己防衛が働いて性は抑圧されるのよ
抑圧は社会に起因しない?
内面の問題よ 本当の性衝動は自我を破壊する
フロイトの論とは逆だな

性衝動は破壊的な力だと考えるのかね
そうですが同時に個と個が破壊されることで新たな存在を生む創造的な力でもあります 創造のためには自己破壊への内的抵抗に打ち勝たねば
その概念には反対してきた しかし性と死の間には切れない絆があるのだろう ひとつ驚いたのはキリストの記述があったことだ
宗教的観点を入れることは反対ですか?
誰が何を信じようと勝手だが診察室には入れられない
それでユング博士と争いに?
争ってなどいない 彼を誤解していた 私の後継者だと思っていたが二流の神秘主義やシャーマニズムに陥った 聖人ぶってるが下品な男だ
彼は患者に病名や原因を教えるだけでなく可能性を示し進歩を促してくれます
神の役割を演じる権利などない あるがままに受け入れる 理解と受容こそが精神医学の道だ 我々の目的は妄想から妄想へ導くことではない
同意見です
ユングと私が争うと君は私の味方をするな
争いはないと
まだ愛してるか
それは関係ないわ 私が憂えるのはお2人が共存できなければ精神分析学が遅れることです 決裂を避けるべきでは?
科学を通じた関係はもちろん保つし9月の編集会議でも礼儀正しく接する 彼に愛想が尽きたのは君の一件からだ 冷淡な振る舞いやうそには驚いた
愛されてたわ
ジークフリートとの背徳の愛は破滅を呼ぶ アーリア人を信じるな 君も私もユダヤ人だ この先も変わらない

彼は受け入れてくれない 既知の理解では不十分で未知の領域を探るべきって事を 病気の正体を探るだけでなく患者の再生を助けたい 患者が目指す人物に導きたいんだ
でも自分が病気になっちゃだめ
正気の医師には治せない
愛人がいるのね
聞いたか
名前は?
トニー
私に似てる?
いや
元は患者? ユダヤ人?
ユダヤ系だ
分析家志望?
私みたいよ
君を思わせる
うまくいくの?
さあな 妻は家の土台で彼女は漂う香りだ 君への愛は大切だった 自分自身を理解できたから 私の子ならな
そうね
許しがたいことをしつつ人は生きていく

『危険なメソッド』


 

希望を願い呪いを受けとめ戦い続けるものたちがいる それが魔法少女 奇蹟をつかんだ代償として戦いの運命を科された魂 その末路は消滅による救済 この世界から消え去ることで絶望の因果から解脱する いつか訪れる終末の日 円環の理の導きを待ちながら私たちは戦い続ける 悲しみと憎しみばかりを繰り返すこの救いようのない世界で あの懐かしい笑顔と再び巡りあうことを夢見て

最近どんなよ
ひとみちゃんがちょっと大変 なかなか上条くんと予定が合わないんだって
うんうん まあほんとに難儀なのはつき合うようになってからなのさ めげずあせらずあきらめずだよ
先生はちょっともう急に世界の終わりがどうとか言い出すしやっぱり相当落ちこんじゃってるのかも
あちゃー そろそろこっちで何かセッティングしてやるかな
かずこ先生どうしてモテないのかな 結構かわいいとこあるのに
あいつは昔から高望みがすぎるんだよ まあ良くも悪くも妥協しねえってのがな
あっ それからね 今日から転校生が来るんだって
へえ こんな時期に珍しくない?
どんな子かな お友達になれるといいな

みなさん マヤ暦で予言された世界の終わりをやり過ごしたからっていい気になってませんか? いやいやまだまだこれからですよ とある宗教の祭礼の日にあわせて日食と月食が6回起こっちゃうという話です 怖いですね まずいですね それに2050年までに何が起こるかといえば はい 中沢くん
ええと いや ちょっと何のことだか…
いけませんね あちらの国では41パーセントの人々があと40年もしないで神の子が再臨すると信じているそうです 黙示録のラッパが鳴っちゃうかもなんです まあ でもね 先生 世界が滅んじゃうのもいいかなあっておもうんです 男女関係とか恋愛とかもうたくさんですし このまま四捨五入して40歳とか言われるぐらいなら もういっそ何もかもおしまいになっちゃったほうが…
あの ちょっと 先生?
はいはいそういえば 今日はみなさんに転校生を紹介しないと じゃあ暁美さんいらっしゃい
暁美ほむらです どうかよろしくおねがいします
暁美さんは心臓の病気でずっと入院していたの ひさしぶりの学校だからいろいろと戸惑うことも多いでしょう みんな助けてあげてね
はーい
えー!
ソウルジェム?
じゃああの子もまさか

 

きれいだね
ええ
ほむらちゃんが転校してきてもう1ヶ月か…
変だよね ずっといっしょにいるみたいな気もするし あっというまだったような気もするし
今夜はナイトメアも出ないままみんな幸せに眠れるといいな 何だか不思議 こんな風にね ほむらちゃんとゆっくりおはなしがしたいなってずっとおもってた気がするの 変だよね 何でもないことなのに また明日になれば学校で会えるんだから
そうね でも私もいっしょ こうしてまどかと過ごせる時間をずっとずっと待ってた気がする


今ようやく彼女を連れて行くところよ
あれが鹿目まどか…
ええ いつか私たちを導く円環の理
待たせちゃってごめんね 今日までずっとがんばってきたんだよね
まどか…
さあいこう これからはずっといっしょだよ
ええ そうね この時を待ってた
ほむらちゃん?
やっと… つかまえた
ソウルジェムが呪いよりもおぞましい色に
何なのあれ? 欲望? 執念? いや違う 暁美ほむら あんたいったい?
理解できないのは当然よ ええ 誰にわかるはずもない この想いは私だけのもの まどかのためだけのもの
ほむらちゃん… ダメ… 私が裂けちゃう!
言ったはずよ まどか もう二度とあなたを離さない

世界が書き換えられていく この宇宙に新しい概念が誕生したというのか?
そういえばあなたは覚えていなかったわね 私にとっては2度目の光景だけれど
何が起きているんだ? 暁美ほむら 君は何に干渉しているんだ? 何を改ざんしてしまったんだ? 信じられない 呪いに染まったソウルジェムが消え去るはずの君の魂がなぜ?
思い出したのよ 今日まで何度も繰り返して傷つき苦しんできたすべてがまどかを想ってのことだった だからこそ今はもう痛みさえ愛おしい 私のソウルジェムを濁らせたのはもはや呪いでさえなかった
それじゃあいったい…
あなたには理解できるはずもないわね インキュベーター これこそが人間の感情の極み 希望よりも熱く絶望よりも深いもの 愛よ
君はいったい何ものなんだ? 魔法少女でも魔女でもなくいったいどこにたどり着こうとしているんだ?
そうね 確かに今の私は魔女ですらない あの神にも等しく聖なるものを貶めて蝕んでしまったんだもの そんなマネができる存在はもう悪魔とでも呼ぶしかないんじゃないかしら
これではっきりした 君たち人類の感情は利用するには危険すぎる こんな途方もない結末は僕たちでは制御しきれない
あら そう でもね 私たちの世界に沸いた呪いを処理するにはこれからもあなたたちの存在が必要なの 協力してもらうわよ インキュベーター

あんた 何をしたか分かってるの?
その様子だと何があったのか理解しているみたいね 美樹さやか
あんたは円環の理の一部をもぎ取っていったんだ 魔法少女の希望だった救済の力を
私が奪ったのはほんの断片でしかないわ まどかがまどかでなくなる前の人としての彼女の記録だけ どうやらあなたたちまで巻き添えになって元の居場所に帰れなくなってしまったようだけれど
いったい何の権利があってこんなマネを?
今の私は魔なるもの 摂理を乱しこの世界を蹂躙する存在 神の理に抗うのは当然のことでしょう?
あんたはこの宇宙を壊すつもりなの?
すべての魔獣が滅んだあとはそれもいいかもね その時は改めてあなたたちの敵になってあげる でも美樹さやか あなたは私に立ち向かえるの? 今でも徐々に記憶が変わりつつあるでしょう?
あたしは確かにもっと大きな存在の一部だった この世界の外側の力とつながっていたのに 今はもうあの感覚を取り戻せない ここじゃないどこかにいたはずなのに
もっと素直に再び人間としての人生を取り戻せたことを喜べばいいんじゃないかしら いずれは何が起こったのかも忘れて違和感すら感じなくなるわ
だとしてもこれだけは忘れない 暁美ほむら あんたが悪魔だってことは
せめて普段は仲良くしましょうね あまりけんか腰でいるとあの娘にまで嫌われるわよ

やあ さやか おはよう
おはようございます さやかさん
ああ うん えっと おはよう うん おはよう2人とも
どうかしたのかい? さやか
いやー 何だかね 恭介や仁美にまた“おはよう”って言えるなんて それだけでどんなに幸せか あたし想像もしてなかったんだってね
相変わらずさやかさんは不思議なことをおっしゃいますわ
そうだよ いつだってあたしは不思議ちゃんさ

女子のみなさんはくれぐれも“半熟じゃなきゃ食べられなーい!”とかぬかす男とは交際しないように そして男子のみなさんは絶対に玉子の焼き加減にけちをつけるような大人にならないこと はい あとそれから今日はみなさんに転校生を紹介します 鹿目さん いらっしゃい
えっと はじめまして 鹿目まどかです

私は暁美ほむら はじめまして 鹿目まどかさん まどかって呼んでもいいかしら 早速だけど校内を案内してあげるわ ついてきて 久しぶりの故郷はどう?
何だか懐かしいような でも何かが違うなあっていうか ちょっと変な気分
無理もないわ 3年ぶりだものね
いや… 結構何も変わってないような気もするの むしろ変わっちゃったのはどっちかっていうと私のような… そう 私にはもっと違う姿 違う役目があったはず それが… どうして…
大丈夫 あなたは間違いなく本当のあなたのままよ 鹿目まどか あなたはこの世界が尊いと思う? 欲望よりも秩序を大切にしてる?
それは えっと その 私は尊いと思うよ やっぱり自分勝手にルールを破るのって悪いことじゃないかな
そう なら いずれあなたは私の敵になるかもね でも構わない それでも私はあなたが幸せになれる世界を望むから やっぱりあなたのほうが似合うわね

『魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語』