容赦なく進む時間の中で人間が無力であるということ

それから揺れは止まった。彼女はパジャマの上に何か服をまとって、階段を下りた。足早に歩いた。小さなロビーを走り抜け、表玄関で煙草に火を点けている男をかすめて外に出た。人々は通りに出て来ていた。彼女は半ブロック歩き、大きな集団の近くで立ち止まった。激しい息遣いで呼吸し、腕をだらりと垂らしていた。最初にはっきりと考えたことは、遅かれ早かれ、屋内に戻らなければいけないということだった。彼女は周囲でさまざまな声が落ちてくるのに耳を澄ました。誰かがまさにこのことを言ってくれないかと思った―残酷さは時間の中にあるのだということ、容赦なく進む時間の中で人間が無力であるということ。彼女はそこにいた女性に、アパートの水道管が破裂したようだと言い、女のほうは目をつぶって頭を重そうに揺らした。このすべてはいつ終わるのだろう?彼女はその女に、アパートから出るときにトートバッグを掴んでくるのを忘れたと言った。何日も用心深く計画を立てたのに、と彼女は言い、その話に悲しげなニュアンスを加えよう、ユーモラスでどこか自嘲的なものにしようとした。我々は何か滑稽なものにしがみつかなければならないのだ。彼女らは頭を揺らしながらそこに立っていた。

通りの端から端まで、煙草に火を点けている人々がいた。最初の地震から八日経っていた。八日と一時間。

彼女はほとんど夜どおし歩き続けた。午前三時に、オリンピックスタジアム前の広場で立ち止まった。車が何台も停まっており、数十人の人々が集まっていた。彼女は彼らの顔を観察し、話に耳を傾けた。道路の車はゆっくりと流れていた。そこには奇妙な気分の二重性があった。すべての会話の核にある、孤独な内省。みんな知り合いを熱心に探しているはずが、どこか上の空だった。彼女はまた歩き始めた。

部屋で九時に朝食を食べているとき、初めてかなり大きな余震を感じた。部屋は激しく傾いた。彼女は立ち上がってテーブルから離れ、目に涙をため、ドアを開けて、そこにうずくまった。バターを塗ったロールパンを握りしめていた。

 

『天使エスメラルダ―9つの物語 象牙のアクロバット』