忘れやすさ

わたしはワイルダーを連れて果物売り場を通っていった。果物は光り輝き、そしてしっとりして、くっきりとした輪郭をみせていた。果物にも自意識があった。写真の案内書にあるカラーの果物のように、注意深く観察されるためだ。わたしたちはしゅっしゅっと水を吹き出すプラスチック容器のところで向きを変え、レジの方へ行った。わたしはワイルダーと一緒にいるのが好きだ。彼の世界はつかの間の満足感の連続だった。彼は得られるものは味わい、たちまち次々と押し寄せる楽しみにそのことを忘れてしまった。わたしがうらやみ、驚嘆するのは、この忘れやすさだった。

レジの女性が彼にいくつか質問をし、子供っぽい声でその返事までした。

町にある家のなかには、手入れを怠っているものが何件か目についた。公園のベンチも修理が必要だったし、穴のあいた道路も再舗装が必要だった。時のしるし。しかしスーパーマーケットは変わりがなく、むしろずっとよくなっていた。商品はよくそろい、音楽もかかり、明るくなっていた。これが鍵だ、とわたしは思えた。すべてがすばらしかったし、すばらしくなりつづけ、スーパーマーケットがなくならない限り、やがてもっとよくなるだろう。

 

『ホワイト・ノイズ 三章 ダイラーの宇宙』