表情がますますぼんやりとなるにつれ、事態はますます危険になる

バベットが聞いた。「ワイルダーはどこ?」そして振り返って、彼を最後に見てから十分はたったわ、というようにわたしをじっと見た。見方によれば、もの思わしくもなく、罪の意識もなく、時がどんどんたつにつれ、より深く不注意の海に沈んでいくというような表情にも見えた。『わたし、鯨が哺乳動物だなんて知らなかったわ』というように。時がどんどんたち、表情がますますぼんやりとなるにつれ、事態はますます危険になる。まるで罪は危険がごくわずかな場合にのみ、彼女が自分に許す贅沢品であるかのようだった。

「どうしてわたしが気づかないうちにカートから出ていったのかしら」

三人の大人がそれぞれ通路の先頭に立ち、カートと歩いていく人々の行き交うさまに目を配った。それからほかの三つの通路にも行き、視線を変えるたびに縫うように少し頭を振りながら、前方にのばしてみた。わたしは右側に色の斑点が見えていたが、そちらを見ても何もなかった。そんなに多くはなく、派手で活発なものではなかったが、もう何年間もわたしはこんな色の斑点を見ていた。マーレイがよその女性のカートに乗っているワイルダーを見つけた。その女性はバベットに手を振り、わたしたちの方へやってきた。彼女はわたしたちと同じ通りに、十代の娘とチュン・ダクという、アジア系の赤ん坊と一緒に住んでいた。みんなは、たいてい誇り高い保護者であるかのような調子で、その赤ん坊の名前を呼んだが、しかし誰もチュンが誰の子か、どこからもらわれてきたのか知らなかった。

 

『ホワイト・ノイズ 一章 波動と放射』