テロリスト

「彼らが自ら死と隣り合わせの生き方を選び、陰の世界に生きているあの生きざま。あなたが嫌うものの多くを彼らもまた嫌うあのさま。あの規律と狡猾さ。彼らの生きざまの首尾一貫性。彼らが扇動し、称賛を煽るあのさま。輪郭がぼやけて過剰になってしまった社会では、恐怖こそが意味のある唯一の行為なのです。あらゆるものが過剰なんです。ものであれ、メッセイジであれ、意味であれ、人生が一万回あったって使いきれないほどあるわけでしょう?無力・ヒステリー症とでもいうのですかね。歴史は可能なんでしょうか?真剣な人間なんか見当たりますか?われわれは誰を真剣に受け止めたらいいんです?死をものともしない信者ぐらいのものでしょう。信念のためには人を殺し、自らも死にゆく人間。そういう人間以外はみんな取りこまれてしまうんです。一ドル札を握らせて、テレビのコマーシャルに出演させればいいわけだから。超然としてるのはテロリストだけですよ。文化はテロリストをどんなふうに同化すればいいのか見当もつかないんです。彼らが何の罪もない人々を殺めると、どうしていいのかわからない。でもそれこそが、耳目を集める言語であり、西洋が理解できる唯一の言語にほかなりません。自分たちがどんなふうに見られているか、彼らが決めつけるさまをご覧なさい。無限に流通するおびただしいイメージの群れを彼らが支配するさまをご覧なさい。ロンドンで言った通り、ビル、小説家こそが、密やかな生活や名もなく無視されたすべての人々にくすぶる憤りを理解できるんです。あなたがたは、半ば人殺しみたいなものですよ。あなたがた小説家のほとんどはね。」

ジョージは、自分の考えに酔いしれ、幸せな気分に浸っていた。ビルが手を動かしたり首を横に振っても、彼は笑みを絶やさなかった。

「それは違う。テロリストが孤独な無法者だというのは全くの神話にすぎんよ。やつらは民衆を弾圧する政府に支援されてるんだ。やつらは、小規模ながらこのうえなく全体主義的な国家を形成していて、完全なる破壊と完全なる秩序という、例の現実ばなれしたものの見方をしてるんだ」

「恐怖ってものは、人知れず密室で一握りの人間たちによって始まる力なんです。彼らは規律を重んじるでしょうし、意志のあるところでは無慈悲でしょう。もちろんのことです。あなたは旗色を鮮明にしなくちゃいけません。日和見を決めこんじゃいけませんよ。虐げられし者や唾棄されし者のことをお考えなさい。こうした人々は秩序を希求するんじゃないでしょうかね。だとしたら、秩序は誰によって彼らに与えられるんです?毛主席のことを考えてもごらんなさい。秩序は永遠なる革命とともにもたらされるのです」

「五千万の紅衛兵のことを考えてもみろ」

「実際、彼らはまだ年端もいかぬ子供ですよ、ビル。すべて忠誠心の成せる業なんです。輝かしく、ときには愚かしく、またときには残虐な忠誠心の成せる業。どこでも少年は突撃用のライフル銃を振りかざしてポーズを取ります。若者というのは、申し分のない残忍さと生硬さを備えているものなんです。それに、ロンドンで言ったみたいに、惨たらしければ惨たらしいほど注目を集めるんです」

「だが、何かを守ることが困難になればなるほど、自分の地位に汲々とするようになる。これもまた別の類の生硬さってものだ」

二人は互いに向き合い、屈みこむようにして座ったまま、もう一杯飲んだ。バイクが騒々しい音を立てて外を通り過ぎていった。

「ジョージ、きみは毛沢東主義を標榜するちっぽけな組織を代弁してるってわけか?」

「まだ構想の域を出ませんが、シリア人やパレスチナ人やイスラエル人のいないレバノン、イラン人の義勇兵もいなければ、宗教戦争なんかもないレバノンを実現したいんです。それには、すべての苦々しい歴史を超越するモデルが必要なんです。並外れた指導力のある何かが、絶対的な存在となる人物が必要なんです。自分たちを作り直そうと悪戦苦闘している社会には、欠かせないわけですよ、ビル。絶対的政治と、絶対的権威と、絶対的存在ってものが」

「もしかりに僕が、有無を言わせぬ権威の必要性を認めるとしても、僕の作品がそれを許さないだろうな。僕自身の意識の経験からして、僕は、いかに独裁政治がうまくいかないものであるか、いかに絶対的な支配が精神をだめにしてしまうかわかっているつもりだ。それに、自分の描く登場人物を完全に支配しようとする僕の努力が、当人たちによっていかにして挫かれ、僕が内なる異議申し立てや論争をいかに必要としているか。この世界を手中に収めたと思った瞬間、いかにして自分が粉砕されてしまうかってこともわかっているつもりだ」

彼はマッチを取り出して、指で摘んだ。

「きみは、僕がどうして小説というものを信じているか知っているかい?小説ってものは民衆の叫びなんだ。誰にでも偉大な小説はかけるものだよ。一冊くらいはね。その辺にいる素人だってほとんど誰でも。僕はそう信じてるんだ、ジョージ。名もなく、汗水たらして働く者であれ、夢を育むことなんかにほとんど縁がない向こう見ずな無法者であれ、机に向かって自分の声を見つけ出し、運良く素材を掘り当てれば書けるわけさ。それにはどことなく天使が乗り移ったみたいなところがあって、才能がほとばしり、着想が湧き出すさまに、君は唖然とすることだろう。他人に真似できない自分だけのテーマ、紛うことのない自分だけの声。そういうところから生まれる曖昧さや、矛盾や、囁きや、暗示。そういったものを、君たちはことごとく破壊しようとしてるんだ」

ビルは思いもよらず自分が憤慨していることに気づいた。

「そして、小説家ってものは、才能がなくなると、民衆とともに死を迎えるものなんだ。もはや望みなき忌々しい駄文の山を衆目にすっかりさらけ出してな」

 

「あなたに申し上げるのもなんですが、言葉が尊ばれるにはいろんな尊ばれ方というものがあるんです。往々にしてすばらしい詩行は、それを取り巻く状況に無頓着なものです。貧しい人々だとか、若い人々だとか、人民には何でも書きこむことができるのです。毛はそう言って、自ら書きまくりました。それで彼自身が、大衆に書かれた中国の歴史となったわけです。その結果、彼の言葉は不滅のものとなり、人民すべてによって学習され、復唱され、暗唱されたのです」

「呪文さながらにね。人民は決まりきったお題目を唱えてるだけのことさ」

「毛が統治する中国では、人民は出かけるにも、いつもある冊子を手に携え、楽しみや娯楽なんか求めやしないんです。自分自身を全中国人民に縛り付けるわけだから。何の冊子ですって?毛語録ですよ。彼の語録を集めた小さな赤い冊子。人民がどこへ行くにも携行する忠誠心の証みたいなものです。彼らはそこに書いてある文句をそらんじて、それを振りかざし、いつもこれ見よがしに誇示するんです。愛し合うときだって手放しませんよ、絶対に」

「お粗末なセックスだな。機械的な、お決まりの、代り映えのしない」

「むろんそうかもしれません。でも、そんな陳腐な反応をなさるとは驚きですな。むろん機械的でしょう。われわれは逃走を遂行するための指針となる著述を記憶にとどめるんです。記憶にとどめることで風化するのを防ぎ、もとのかたちが保たれるわけです。子供が親が語ってくれた話を覚えこみます。子供は、同じ話を何度も何度も聞きたがるものなのです。そのとき、一言と言えども変えてはなりません。さもないと子供はひどく混乱しますから。これこそが、文化というものが生き残っていくために必要な、変わらざる物語というものです。中国においては、そうした物語は毛のものでした。革命の行方を定かなものとするために、人民はそれを覚えこみ暗唱したのです。そんなふうにして、もう自身の体験は外部からの力によって朽ち果てることなく、何億という人民の生きた記憶となったのです。毛を崇拝することは毛語録を崇拝することにほかなりません。それは統合を求める叫びであり、群衆の結集を求める呼びかけであるわけです。そこではみんなが同じような服に身を包み、同じような考え方をするんです。そこに美が宿るとは思いませんか?あなたがた作家は部屋に閉じこもって本を読んでいるんでしょうが、人民は部屋から出るんです。そして、毛語録を手に振りかざす群衆となるんです。『われらが神は中国人民という大衆なり』と、毛は言いました。これこそ、あなたがたが恐れることでしょう。歴史が群集の手に移るというこのことこそが」

 

「君が問いかけなくちゃいけないことは、どれほど多くの人間が死んだかってことだ。どれほど多くの人間が文化大革命にさなかに命を落としたことか?どれほど多くの人間が大躍進の末、犠牲となったことか?それに、毛が死者をどうやってうまく隠したかってことだ。これこそ問いかけなくちゃならないもう一つの問題なんだ。連中は自分たちが殺した何百万人もの人々の始末をどうつけたんだ?」

「殺戮はこれからも起こるでしょう。大量虐殺ってものは常にそれ自体何かを物語っています。とてつもない死、数え切れないおびただしい死、こうしたものは所詮、時間と空間の問題でしかないわけです。指導者は、そうしたことを引き起こす力がいかなるものか解釈するだけのこと」

 

「ところで、もし僕がベイルートへ出かけていって、君が興味を持っている精神的連帯とやらを実現したとしたらどうなる?つまりラシッドと話をするとしたら。やつは人質を解放すると見ていいのか?その見返りに何を求めてくる?」

「人質をあなたと取り代えたいと望むでしょうな」

「最大限の注目を集めておいて、最も有利な潮時を見計らって僕を解放するんだな」

「最大限の注目を集めておいて、それからおそらく十分後に殺すでしょう。それから、あなたの死体の写真を撮って、それを最も効果的に使えるときまで手元に取っておくんです」

「やつにすれば、僕の写真よりも、僕自身の方が価値があるんじゃないのか?」

「人質を捜索しようと、シリア軍が南部一帯の郊外を掃討してるんです。だから、いつも人質を移動させなくちゃならない。率直に言って、ラシッドがそんな面倒なことをするはずもない」

「じゃあ、もし僕がこのまま飛行機で帰国してしまったらどうなる?」

「人質を殺すでしょう」

「それで、そいつの死体を写真に収めるってわけか」

「ないよりはましですから」と、ジョージは言った。

 

『マオⅡ』