どこの国のものともつかぬ雑多な食べ物を吐いていた

何かに取り憑かれた目をしてるぞ、お前は。

だが、マインド・コントロールを解かれるということが、家へ戻って静かな部屋とベッドと規則正しい食事にありつくことを意味するのであれば、差し当たって彼女は、少し我を曲げてやつらの言いなりになってやらないこともなかった。両親も愛してくれていることだし、自分としても、もう一冬ワゴン車で過ごすのはご免だった。

やつらはジャネットを招き入れた。元教会員の彼女は、親に奪回されてマインド・コントロールを解かれ、今度は教会批判の先兵として脱会者の心を和らげるのに利用されていた。彼女は自らの経験という大いなる汚れを身にまとっていた。カレンは、彼女が部屋に駆けこんでくるのをじっと見つめた。カレンに深く同情しているみたいに見せかけていたが、それは言葉ばかりで、実のところ彼女は優越感に浸っていて、彼女のことなど歯牙にもかけていなかった。だが彼らは、涙の抱擁を三度まで繰り返し、自分たちに割り当てられた姉妹のように親密な役柄を曲がりなりにも演じ続けた。男たちは外に控えていて、彼らの影は締め切ったカーテンと区別がつかなくなっていた。ジャネットは、師の教えを説いた書物を引き裂き、脱会した元信者からの手紙を死者みたいなもったいぶった声で読んで聞かせた。彼女の歯は、治療を要するようにカレンには思えた。歯と歯の間には黄味がかった食べ滓が溜まり、御多分にもれず歯石ができていた。歯石と歯垢。カレンは、バターのように口滑らかなジャネットの方を見据え、騙されないわと心の中で自分に言い聞かせた。

あなたならわかってくれると思うけど、そこにいたいような、そこから逃げ出したいようなひどく矛盾したあんな気分のとき、やつらときたら、ギザギザした凶器か何かで首筋を刺してやりたくなる人間を呼び入れたのよ。

彼らはオハイオ中部のとあるモーテルに立ち寄った。だが、二人の雰囲気はぎこちなくなっていた。疲労のあまり、二人は言葉を交わすことも少なかった。スコットには、彼女の気持ちが察せられた。そもそも自分がどうしてここにいるのだろう。うさん臭いほど親身になってくれる見知らぬ男と旅連れになった自分。それにしてもこの男は一体何者なのだ。やつらがパーティーの景品みたいに私の心をひっくり返そうとした、茶色がかった箱みたいなあの部屋と寸分も違わぬ部屋にまた座っている自分。アメリカ中どこへ行こうが張り巡らされているモーテルのチェーン店の同じような部屋。この男ったらその一軒一軒に私を立ち寄らせるつもりなんだわ。

そういう雰囲気を察して、スコットは、ビルのことを知っている限り彼女に話して聞かせた。彼がどういう人間であり、どんな仕事をしていて、どんなに陰鬱なときがあり、いかに深く自分が彼に傾倒しているかという話をしてやった。彼女は押し黙ったまま耳を傾け、言葉と孤独とスゲが生い茂る湿地のごとき別世界を思い描こうとしているように見えた。

二人はレストランへ出かけ、豪勢な夕食を取った。メニューには房飾りが付いていて、晩餐室へは歩廊までしつらえてあった。そこで初めて彼女は、彼の方をまじまじと見た。いわば彼女は、ここ一日半の間に偶然起こった驚くべき出来事が彼の顔に記録されているみたいに、過去に遡ってそれらを彼から吸収しようとしていた。二人は部屋に戻った。同情心から彼女を救うために体を求めるにしても、自分を消し去って体を求めるにしても、機はまだ熟していなかった。彼女は話し込んでは眠り、やがてまた彼を起こして話を続けた。

やつらは彼女に言い聞かせた。カルト脱会後の問題は、お前が人間全体との絆を失ってしまうことだ。

やつらは言った。お前がいい子だってことはおれたちだってわかってるさ。外界に適応しようと辛い段階を通り抜けているんだから。その間、ご両親もじっと祈るように待ちわびて、お前の気持ちが楽になるようせっせと小切手を切っておられるのだ。

やつらは、教会のせいで自分はろくでなしになったのだと彼女に不承不承、認めさせた。彼女は唱えた。ジブンハ、ロクデナシニサレタノダ。ジブンハ、ロクデナシニサレタノダ。その夜、ちくちくするような光に照らし出されたベッドから身を起こすと、彼女は、ヘッドフォンを付けたあの女に何か言おうとしたが、言葉にならなかった。ふと気がつくと彼女は、四つんばいになってトイレの床にどこの国のものともつかぬ雑多な食べ物を吐いていた。

やつらは彼女に告げた。いいか、お前はマインド・コントロール除去センターに行くんだ。いろんなセクトや運動に加わって自分を見失い、身も心も傷ついた連中が集まられ、人間らしい慰めを受けるところだ。

 

『マオⅡ』