決定的な匿名性

人々は至るところにいた。多くはカメラを抱えていた。

「腕に磨きをかけたな」とテリーは言った。

「そんなところさ」

「状況が変わりつつあるんだ。注目を浴び、テレビが放送し、新米たちが押し寄せる。すぐにすたれるけどな」

「そいつはいい」

「そいつはいい」とテリーは言った。

「俺たちはポーカープレーヤーだ」

彼らは滝の近くのラウンジに、飲み物と軽食をもって座っていた。テリー・チェンは裸足にホテルのスリッパをはいている。灰皿のタバコが燃え続けているのを意にも介していない。

「秘密裏に行われているゲームがあるんだ、プライベートなゲーム。賭け金が高くて、選ばれた都市だけで行われている。これって、禁じられた宗教が再び湧き起っているみたいなんだよ。五札のスタッドポーカーとドローポーカー」

「俺たちの昔のゲームだな」

「ゲームが二つあるんだ。フェニックスとダラス。ダラスのあの地区って、何ていったっけ?上流階級の地区」

「ハイランドパーク」

「上流階級の人たち、お年寄りたち、コミュニティのリーダーたち。ゲームを知り、ゲームを尊重している」

「五札のスタッドポーカー」

「スタッドポーカーとドローポーカー」

「きみは腕利きだよ。でかい勝負に勝てる」とキースは言った。

「俺はやつらの魂を思いのままにできるんだ」とテリーは言った。

群衆はラウンジを動き回っていた。メリーゴーラウンドにも似た、開かれた空間。ホテルの客たち、ギャンブラーたち、観光客たち。レストランや豪華な店、アートギャラリーなどに向かう人々。

「あの頃、タバコ吸ってたっけ?俺たちがポーカーをしていた頃」

「わからないな。教えてくれよ」とテリーは言った。

「きみだけが吸わなかった気がするな。何人か葉巻を吸うやつがいて、ひとりタバコを吸っていた。それはきみじゃなかったと思うんだ」

ときどき、他と隔絶した瞬間が訪れた。ここに座っていながら、テリー・チェンがキースのアパートでテーブルに向かっているように思われる瞬間。ハイローポーカーの後、巧みな技で素早くチップを分けている。彼は彼らの一員であり、ただポーカーがうまいというだけだったが、本当には彼らの一員ではなかった。

「俺のテーブルにいた男、見たか?」

「外科手術用のマスクをした男」

「大勝ちしていたよ」とテリーは言った。

「あれが広がっていくのが目に見えるようだな」

「マスクのことか。そうだな」

「一日に三人か四人ずつ、手術用マスクをした連中が現れる」

「その理由は誰も知らない」

「それから十人増え、さらに十人増える。どんどん増えていくんだ、中国の自転車乗りみたいに」

「何でもいいけど」とテリーは言った。「まさにその通りだな」

彼らは相手の思考のルートを綱渡りのようにかろうじて追っていた。彼らのまわりには、言葉にはならない騒音が響いていた。空気中に、壁に、家具に、動いている男女の体に、あまりに深く根づいているため、無音の状態とほとんど区別できないほどだった。

「日常からの離脱だよ。やつらは年代物のバーボンを飲み、妻たちをどこか別の部屋に待たせている」

「ダラスの話だな」

「そうだ」

「俺にはわからないよ」

「ロサンゼルスで始まったゲームがあるんだ。同じだよ、スタッドポーカーとドローポーカー。若い連中さ。潜伏していた初期キリスト教徒みたい。考えてみろよ」

「わからないよ。そういう集団の中で二晩も過ごせるかどうか自信がない」

「あれはラムジーだったと思うな」とテリーは言った。「タバコを吸っていた唯一の男」

キースは四十メートル近く離れたところにある、滝をじっと見つめた。そして気がついた。彼はこれが本物なのか模造なのかわからないのだ。水の流れはまったく波立っていないし、水が落ちる音はデジタルで簡単に作れる―滝自体もそうだ。

「ラムジーは葉巻だよ」

「ラムジーは葉巻。たぶん君の言う通りだな」

テリーのマナーはいい加減だったし、服は体に合っていなかった。ホテルの奥深いロビーや、周縁に広がるショッピングアーケードに入ると、彼は完全に人々の中に埋もれてしまう。にもかかわらず、テリーはこの生活にきっちりとはまっていた。ここには対応の法則性がなかった。あることが別のことによってバランスを取っていない。ひとつの要素を、別の要素を通してみるというようなことがない。すべてがひとつのことなのだ。どんな場面であれ―どんな都市のどんな賞金であれ。これこそが要点だ、とキースは見て取った。彼はこちらの方が好きだった。気楽な冗談を言い合ったり、妻たちが花を活けたりしているプライベートなゲームよりも。その形態がテリーの虚栄心にアピールしたのだろうが―とキースは考えた―それは、こちらでの日々のような決定的な匿名性には匹敵しないのだ。物語がまったく付着されていない、無数の人生がまじりあうこと。

「あの滝を見たかい?あれを見て、自分は水を見ているって確信できるか?本物の水だって?特殊撮影によるものではなく」

「考えたことがなかったな。それは、俺たちが考えるべきことじゃないんだよ」とテリーは言った。

彼のタバコはフィルターのところまで短くなっていた。

「俺はミッドタウンで働いていた。みんなが感じたような衝撃は経験しなかったんだよ。あそこで、きみがいたようなところでの衝撃はね」と彼は言った。「こういう話を聞いた。誰かが話してくれたんだ。ラムジーの母親がさ。何だったっけ?靴だ。靴を持って行ったっていうんだよ。ラムジーの靴の片方と、かみそりの刃をね。やつのアパートに行って、そうしたものを手に入れて―髪や肌の欠片みたいな、遺伝子の情報が含まれていそうなものは、何でもかんでも持ち出したんだ。それをDNA鑑定のために持って行ったんだけど、そこには兵器庫があったってさ」

キースは滝を見つめていた。

「お母さんは一日か二日後にまたそこに行った。誰がこの話をしてくれたんだっけな?また何かを持って行ったんだ。歯ブラシだか何だか。それからまたそこに行った。また別のものを持って行った。それからまた行った。そうしたらやつらは場所を移転していたって。それでお母さんは行かなくなったんだ」

テリー・チェンは―かつてのテリーは―こんなに話好きではなかった。優秀な者には自制心が必要であり、短い話をすることさえ、そこから逸脱するものだと考えていた。

「前にはそういう話をしていたんだ。あのときどこにいたのかって話になるだろ。どこで働いてたのかって。俺はミッドタウンて言う。その言葉はすごく無防備なんだよ。どこでもないみたいなんだ。聞いた話じゃ、ラムジーは窓から飛び降りたんだってな」

キースは滝の中をじっと見つめた。これは、目を閉じるよりずっといい。目を閉じたら、何か見えてしまうから。

「きみは法律事務所の仕事に戻ったんだよな、しばらく前に。そういう話をした覚えがある」

「違う会社だよ。法律事務所じゃない」

「何でもいいさ」とテリーは言った。

「まさにそれだな。何でもいいんだ」

「でも、俺たちはここにいて、この狂乱が終わるまでずっとここに残るんだ」

「きみはまだオンラインでプレーしているのか」

「ああ、やってる。やめられないんだ。俺たちはずっとここに残る」

「あの手術用マスクの男も」

「そうだな、やつも残る」

「それから瞬きする女も」

「俺は瞬きする女って見たことないんだ」とテリーは言った。

「いつか話しかけようと思って」

「きみは小人を見たか」

「一度だけね。それからいなくなった」

「あの小人はカーロって名前なんだ。すごい負けっぷりだったよ。名前を知っているプレーヤーはあれだけだな、きみを除けば。どうして名前を知ったかっていうと、小人だからだ。それ以外には、名前を知る理由はない」

彼らの後ろでは、スロットマシーンの大群がゴボゴボと音を立てていた。

 

『墜ちてゆく男』