このゲームの外には何もなく

ダウンタウンの古いカジノにあるレース&スポーツのコーナーでは、五列の長いテーブルが階段状に並べられていた。彼は最上段の一番奥のテーブルの端に、正面に向かって座った。正面の壁の情報にはスクリーンが五つあり、地球上のさまざまな時間帯における競馬レースを映し出している。彼のすぐ下のテーブルでは、男がペーパーバックを読んでおり、持っているタバコの火が手まで焦がしそうになっていた。向かい側の一番下のテーブルには、フードつきのトレーナーを着た大柄な女が新聞の列の前に座っていた。その人物が女だとわかったのは、フードをかぶっていなかったからだが、どちらにしろ身振りや姿勢によってわかっただろう。彼女が新聞を前に広げ、両手で新聞を撫でつけたり、読まないページを邪魔にならないようにつついたりする仕草から―薄暗い灯りと立ち込める煙の中で。

カジノは彼の後ろの両側に広がっていた。何エーカーものけばけばしいスロットマシーンの列。そのほとんどの機械が今は人間の脈拍を感じていない。彼はそれでも、自分が取り囲まれているように感じた。薄暗い光と低い天井、そしてどんよりと淀む煙に閉じ込められている。肌に付着する煙。ここ何十年間の客たちと、その営みの痕跡を含んでいる煙。

午前八時だったが、それに気づいているのは彼しかいなかった。隣のテーブルの向こう端に目をやると、そこには白髪をポニーテールにした老人が座っていた。椅子のひじ掛けから身を乗り出し、レース中盤の馬たちを見つめている。その心配そうな体のひねり方は、彼の金が危険に晒されていることを示していた。それ以外、彼はまったく動かない。身を乗り出す姿勢がすべてであり、それから競馬場のアナウンサーの声が聞こえてきた。矢継ぎ早にしゃべる、静かな興奮の声―「ヤンキーギャルがインコーナーから出て来ました」

このテーブルにはほかに誰もいなかった。レースが終わり、別のレースが始まった。あるいは、同じレースがひとつかそれ以上のスクリーンでドタバタした動きがあった―低階層にあるレジ係窓口の上の窪みに設置されたスクリーン彼は、すぐ下で本を読んでいる男に目をやり、男の手の中のタバコが燃え尽きていくのを眺めていた。彼はまた時計を見た。時間と曜日はわかっている。いつになったら、こういう些末なデータを意識しなくてもよくなるのだろう―そんなことを彼は考えていた。

ポニーテールの男を立ち上がり、レースが最終コーナーに差しかかったところで出て行った。新聞を細く丸め、それで腿を叩きながら。この建物全体が自暴自棄な匂いを漂わせている。しばらくしてキースも立ち上がり、ポーカーの部屋に歩いて行った。そこでチップを買い、席について、いわゆるトーナメントが始まるのを待った。

人が座っているテーブルを三つだけだった。彼はホールデムのゲームを約七十七回繰り返すうちに、そのすべてに生命を感じるようになっていた。自分にとってではなく、他の者たちにとって―意味を掘り進んだ末に見えた小さな出口。彼はテーブルの向かいに座って、瞬きを繰り返している女を見つめた。痩せて、皴があり、顔はよく見えない女。すぐそこに、一・五メートル離れたところにいて髪は白くなりかかっている。彼は彼女が誰だろうとは考えなかった。あるいは、ポーカーが終わったらどこに行くのだろうか、どんな種類の部屋に戻るのだろうか、どんなことを考えるのだろうか、などとは。考え始めたらきりがない。要はそういうことなのだ。このゲームの外には何もなく、色褪せた空間があるだけ。彼女は瞬きをし、コールし、瞬きをし、降りた。

遠くのカジノでは、アナウンサーのくぐもった声がリプレーで響いていた―「ヤンキーギャルがインコーナーから出て来ました」

 

『墜ちてゆく男』