でも訊いたって、言わないでしょ

ケイティは玄関までついて来た。この娘は赤いジーンズの裾を折り曲げてはき、スエードのアンクルブーツをはいていた。歩くと、ブーツの縁飾りのあたりが蛍光色に輝いた。弟のロバートは後ろでもじもじしていた。この黒い目の少年は、話すことも食べることも犬の散歩もできないくらいシャイに見える。

電話が鳴った。

リアンはケイティに言った。「もう空を見るのはやめたんでしょ?昼も夜も空を見張るのは?そうよね。それともまだやってるの?」

娘はジャスティンを見つめ、何も言わずに、いたずらを一緒に企んでいるような笑みを浮かべた。

「あの子は話してくれないの」とリアンは言った。「何度も何度も訊いたんだけど」

ジャスティンは言った。「訊いてないじゃないか」

「でも訊いたって、言わないでしょ」

ケイティの目は輝いた。彼女はこれを楽しんでいたのだ、巧みに言い逃れをしなければならない場面を想定しながら。彼女の母親はキッチンの壁に取り付けられた電話で話していた。

リアンは娘に向かって言った。「まだお告げを待ってるの?飛行機が来るのを待ってる?昼も夜も窓から外を見て?そうじゃないわよね。信じられないもの」

彼女は娘の方に身を傾け、舞台での囁き声のように話しかけた。

「まだその人と話しているの?例のあの人―その人の名前を大人たちは知ってはいけないことになっているのよね」

弟は気まずそうな顔をしていた。ケイティの四メートルほど後ろで黙りこくり、姉の足と足のあいだの寄せ木細工の床を見つめている。

「その人はまだあそこに―どこかに―いて、あなたたちに空を見張らせているの?大人たちが名前を知ってはいけないことになっているあの人。でも、みんな知ってるんだけど」

ジャスティンは彼女の肘からジャケットをひったくった。これは、早く帰ろうという合図だった。

「もしかしたら―あくまでもしかしたらだけど。私はこんなふうに考えているの。もしかしたら、あの人はもう消える時期なんじゃないかしら。みんなが名前を知っているあの人は」

彼女はケイティの顔に手をやり、耳から耳まで顔を包み込んで、撫でてやった。キッチンではイザベルが声を張り上げ、クレジットカードの問題を話していた。

「たぶんその時期なのよ。そうじゃないかって思わない?もしかしたら、あなたももう興味がないのかも。イエス、それともノー?もしかしたら―あくまでももしかしたらだけど―空を見張るのもやめるべき時期なんじゃない?いま話題にしているあの人のことを話すのもやめる時期。どう思う?イエス?それともノー?」

娘の顔は前のように幸せそうではなくなった。彼女は左にいるジャスティンの方に視線を送ろうとした―“どういうことになってるの?”とでも言いたげに。しかしリアンは娘をさらに引き寄せ、右手を使って彼女の視線を遮った。そして、ふざけている表情を装って微笑んだ。

弟は自分を見えなくしようとしているようだった。彼らはどぎまぎし、少し怯えていたが、彼女がケイティの顔から手を離したのはそのせいではなかった。もう立ち去るつもりだったからだ。

エレベーターまで歩き、二十七階からロビーまで下りながら、彼女は例の神秘的な人物について考えていた。飛行機がまたやって来ると言った人物、皆が名前を知っているあの男。しかし、彼女はその名前を忘れてしまった。

雨は小降りになり、風も静まっていた。彼らはひと言もしゃべらずに歩いた。彼女は名前を思い出そうとしたが、どうしてもできなかった。子供は広げた傘の下を歩こうとせず、四歩ほど遅れてついて来る。あれは簡単な名前だった―そこまでは彼女も覚えていた。しかし、簡単な名前こそ、彼女は苦手だったのだ。

 

『墜ちてゆく男』