死に至る病

彼はテレビでポーカーを見ていた。砂漠のカジノ・コンプレックスでプレーする者たちの、苦痛に歪む顔。彼は興味もなく見続けていた。これはポーカーではない。テレビだ。ジャスティンが入って来て、一緒に見始めた。そこで彼はゲームのルールを説明してやった―途切れ途切れに―プレーヤーがゲームを中断させたり、掛け金を上げたり、戦略が明らかになったようなときに。それからリアンが入って来て、フロアに座り、息子を見つめていた。息子は体を大胆に傾けて座っている、ほとんど椅子には触れずに。そして魅入られたように光を見つめている。UFOに誘拐される瞬間のようだ。

彼女はテレビ画面を見つめた。クローズアップになった顔を。ゲーム自体には何も感じなくなっていた。カードをめくっただけで十万ドル稼いだり損したりするつまらなさ。そんなの何も意味しない。彼女の関心や共感の埒外だった。しかし、プレーヤーたちには興味をそそられた。彼女はプレーヤーたちを見つめ、引き込まれた。無表情で、眠そうで、前屈みになった男たち。不運に見舞われた男たちを見ていると、彼女の心はなぜかキルケゴールに飛躍した。キルケゴールの本を読みながら過ごした長い夜を思い出した。彼女はテレビ画面を見ながら、北国の荒涼とした夜を、砂漠に間違って置き忘れられた顔を想像した。ここには魂の戦いがあるのではないか?継続するジレンマの感覚が―勝者になったときの小さな瞬きにも?

彼女はそのことについて何もキースには言わなかった。彼は体を半分彼女の方に向け、考え込むようなふりをして虚空を見つめるだろう。口を開け、目蓋をゆっくりと閉じていき、やがて頭を胸のところまで沈めるだろう。

彼はここで暮らしていることについて考えていた―キースは。あるいは考えているのではなく、ただ感じていた、気づいていた。彼は彼女の顔がテレビ画面の隅に映っているのを見た。カードプレーヤーたちを見て、彼らの戦略と、それに対抗する策略に注目していたが、同時に彼女のことを見ていた。そして、それを感じていた。彼らとともにここで暮らしているという感覚を。彼はシングルモルトのスコッチウィスキーを握り締めていた。街路からは車の盗難警報器の音が聞こえてきた。彼は手を伸ばし、ジャスティンの頭を叩いた―ノックノック―もうすぐ起こる展開に注意を促すために。カメラはひとりのプレーヤーの切り札を捉えている。そのプレーヤーは自分が死んでいることをまだ知らない。

「あいつは死んでるよ」と彼は息子に言った。子供は何も答えず、腰を下ろす途中のような斜めの体勢を保っていた。半分椅子に、半分床に腰を掛け、半分催眠術にかかったかのような表情をしている。

彼女はキルケゴールの古臭さが好きだった、彼女が持っていた翻訳の大げさな語り口が。古いアンソロジーの破れやすいページには、赤いインクで下線が引かれていた。母親の家族の誰かから譲り受けた本。これこそ、彼女が寮の部屋で夜遅くまで繰り返し読んだものだった。吹き溜まりのような紙の山、服、本、テニス用品に囲まれて―よく彼女はそれを溢れ出る精神の客観的相関物というふうに考えていた。客観的相関物って何だろう?認知的不協和って何?かつてはそういう問いへの答えを知っていたような気がする。彼女はキルケゴールのKierkegaardというスペリングまで好きだった。スカンジナビア系の堅いkの音と、aが二つ並ぶ可愛らしさ。母はしょっちゅう彼女に本を送ってきた。分厚くて読みにくい小説、まったく隙がなく、情け容赦のない代物。それは彼女の切なる願い―自我の認識を求め、精神と心にもっとも近いものを求める気持ち―を打ち砕いていた。彼女は熱っぽい期待を抱いてキルケゴールを読んだ。死に至る病という荒涼としたプロテスタント的な世界に真っ直ぐ進んでいった。彼女のルームメートはパンクロックの歌詞を「ピス・イン・マイ・マウス」という架空のバンドのために書いており、リアンはその女性のクリエーティヴな自暴自棄ぶりに憧れていた。キルケゴールは彼女に危機を、精神的に崖っぷちの感覚を与えてくれたのだ。「存在の全体が私を怯えさせる」と彼は書いた。彼女はこの文章の中に自分自身を見た。彼のおかげで感じ方が変わった。自分が世界に飛びこんだことは、以前思っていたような心もとないメロドラマなどではない―彼女はそう感じるようになった。

彼女はカードプレーヤーたちの顔を見つめた。それから夫の目を捉えた。画面上に反射した目、それが彼女を見つめていた。彼女は微笑んだ。彼の手には琥珀色の酒が握られている。車の盗難警報器がどこか街路で鳴っている。馴染み深いものが与える安心感、平和に更けていく夜。彼女は手を伸ばし、座っている子供を抱き上げた。彼が寝室に行く前に、キースはポーカーのチップとカードが欲しいかいと訊ねた。

答えは「たぶんね」だった。これは「イエス」ということだ。

 

『墜ちてゆく男』