そんなことかまわないわ

「ママはダイラーさんについてどんなことを知ってるの?」

「ストーヴァーさんたちと住んでいる黒人の少女でしょう?」

「それはダカールよ」とステッフィーが言った。

「ダカールは彼女の名前じゃないわ。彼女の出身地のことよ」とデニスが言った。「アフリカの象牙海岸にある国だわ」

「首都はラゴスね」とバベットが言った。「わたしは前に一度、世界じゅうを旅行してまわるサーファーの映画で見たので知ってるの」

「『ザ・パーフェクト・ウェイブ』」とハインリッヒが言った。「ぼくもテレビでそれを見たよ」

「じゃあその女の子の名前は?」とステッフィーが聞いた。

「知らないわ」とバベットが言った。「でもその映画、『ザ・パーフェクト・ウェイブ』じゃなかったわ。パーフェクト・ウェイブは彼らが探していたものよ」

「彼らはハワイへ行くのよ」とデニスとステッフィーが言った。「そして日本から高波が来るのを待つんだわ。みんなオリガミって呼んでたけど」

「で、その映画は『ザ・ロング・ホット・サマー』だったわ」と母親が言った。

「『ザ・ロング・ホット・サマー』は」とハインリッヒが言った、「テネシー・アーニー・ウイリアムズ作の戯曲だったはずだけど」

「そんなことかまわないわ」とバベットが言った。「とにかく題名の著作権なんてないんだから」

「もし彼女がアフリカの人なら」とステッフィーが言った、「彼女、ラクダに乗ったことあるのかしらね」

「アウディ・ターボを試乗して下さい」

「トヨタ・スープラを試乗して下さい」

「ラクダってこぶのなかに何を貯めているのかしら?」とバベットが聞いた。「食べ物かしらそれとも水?わたし、こんなことがよくわからないの」

「ひとつこぶのラクダと、ふたつこぶのラクダがあるんだよ」とハインリッヒが彼女に話した。「だからママがどっちのことを言ってるのかによるよ」

「ふたつこぶのラクダはひとつに食べ物を、もうひとつに水を貯えているっていうの?」

「ラクダで大切なことは」彼は言った、「ラクダの肉が珍味とされていること」

「それはワニの肉だと思うけど」とデニスが言った。

「誰がラクダをアメリカに持ち込んだのかしら?」とバベットが言った。「彼らはラクダを、ユタ州のオグデンで合流する、大鉄道を敷設する日当の労働者の物資を運ぶために、しばらく西部に連れていったのよ。歴史の試験を覚えてるわ」

「ラマのことを言ってるんじゃないんだね?」とハインリッヒが聞いた。

「ラマはペルーだもの」とデニスが言った。「ペルーにはラマとヴィキューニヤと、もうひとつ似たような動物がいるわ。ボリビアには錫が出る。チリには銅と鉄」

「ぼく、あたった人誰にでも五ドルあげるよ」とハインリッヒが言った。「ボリビアの人口をぴたりと言いあてられたらね」

「ボリビアのね」とわたしの娘が言った。

家族は世界の間違った情報の発祥地だ。家庭生活には事実に基づく誤りを生じさせるものがあるに違いない。身近過ぎることと、騒音と、存在の熱気。生き残るために必要な、おそらくより深淵なもの。マーレイはわたしたちは敵対する事実の世界に囲まれた、こわれやすい生き物だと言っている。事実は幸福と安全を脅かす。わたしたちが物事の性質を深く探求すればするほど、わたしたちの構造はどんどん失われていくような気がする。家族の変遷は世界を封鎖する方向へ進む。小さな誤りは知性をひろげ、虚構を増殖させる。わたしはマーレイに、無知や混乱が家族結束の背後にある原動力であるはずがないと言う。何という発想、何という破壊。彼はわたしに、なぜ最も強い家族の絆が、最も未開の社会に存在するのか、と尋ねる。知らずにいることが生き残るための武器だ、と彼は言う。魔術と迷信が一族の強力で正当的な慣行として根づいていく。家族は客観的な現実が最も曲解されそうな場所で、最も強いんだ。何と心なき理論だ、とわたしが言う。しかしマーレイはそれが事実なんだと譲らない。

 

『ホワイト・ノイズ 一章 波動と放射』