俺の心はサソリで一杯だ

今度はいつ会う? 雷? 稲妻? 雨の中で?

騒動がおさまり戦に負け勝った時に

場所は?

荒野だよ そこでマクベスに会う

いいは悪く 悪いはいい 汚れた霧空 飛んでいこう

 

何者だ?

生きてて言葉が通じるのか? 答えろ 何者だ?

マクベス グラームズの領主

マクベス コーダーの領主

マクベス 将来の国王となる者

どうされた いい知らせに怯えた顔を わが友はこれからの出世と王位まで予言され呆然としておられる

マクベスより小さくマクベスより偉大な方

幸せでなくでもずっと幸せ

王になれず子孫が王に

万歳 マクベスとバンクォー

バンクォーとマクベス 万歳

待て 訳の分からんことを言う奴らだ どこからそのような話を? こんな荒野でなぜ我々にそんな予言を? 言え! 答えろ!

見ろ 水の泡のように大地に消えてしまったぞ

息が風に溶け込むように大気の中に消え失せた 引き止めたかった

本当にいたのかな? 我々が毒草を食い幻覚を?

“子孫が王になる”と

貴公は王に

コーダーの領主にもなる

確かにそう言った

 

あの不可解な予言は悪か善か判断がつかぬ 悪いなら奴らはなぜ真実を語り俺をコーダーの領主に? 善いならなぜ俺は王位の誘惑に屈するのだ? 思うだに恐ろしさに身の毛がよだつ 想像する恐怖は現実より恐ろしい 運で王になるなら何もせず運に委ねよう

 

“奴らに出会ったのは勝利の日 そして知った 奴らが人知の及ばぬ力を持つことを もっと話したかったが大気の中に消えてしまった その場に呆然と立ちすくんでいると王の使者が来て「コーダーの領主」と 魔女どもが私に呼びかけた称号だ そして未来を仄めかし「未来の国王万歳」と” おいで! 血の企みに手を貸す悪霊よ 私から“女”を奪って頭の先から爪先まで残忍な心で満たしておくれ この乳房に入り甘い乳を苦い胆汁に変えておくれ お前は今もどこかで悪事を働いてるはず おいで 暗黒の夜よ 地獄の黒い煙に身を包み短剣がつくる傷口を隠しておくれ 天が闇の帳から顔を出し“待て!”と止めないように 夫が戻ったら私の魂をその耳に注ごう 私の舌の力で王冠の邪魔をするものを追い払おう

 

お手紙を読んで私は現在を飛び越えもう未来に息づいてる気分です

愛する妻よ 今夜ダンカンが来る

ご出発は?

明日とのことだ

王に明日は来ません グラームズから今はコーダー さらに約束された地位に ご気性が心配です 人情という甘い乳に満ち近道を選べない方 野心はあってもそれを支えるべき邪な心がないのです 世間を欺くには世間と同じ顔を 目と手と舌で王に歓迎の気持ちを表し無心の花の陰に蛇を潜ませる さあ歓迎の準備を 今夜の“大仕事”はお任せ下さい 至上の権力を手にできるか 私たちの未来が今夜決まるのです

 

そこにあるのは短剣か? 柄を俺に向けてる よし この手に渡せ 見せておいて触れさせないのか? それは幻の短剣か 熱に浮かされた頭がつくり出した幻覚か 俺の使おうとする物の形で俺を案内するつもりか 目がどうかしたのか 他の感覚がおかしいのか これは錯覚だ あの血なまぐさい企みのせいだ いま世界の半分は死んだように眠り悪夢が眠りを欺いてる 魔女たちは浮かれ人殺しは幽霊のように忍び寄る お前が見える 今抜いた短剣のようにはっきりと 脅し文句を並べても言葉は実行の熱を冷ますだけだ

 

貴公の血の泉 その流れのもとが止まってしまった その源からダンカンが白銀の肌を黄金の血で染めて横たわり人殺しどもは仕事を物語る色に塗れてる 俺がこの行いの1時間前に死んでいれば幸せな一生だった この世から価値のあるものは何もなくなった 何もかも玩具同然 栄誉と美徳は死んだ 命の酒は飲み干され酒蔵に残ったのは澱だけだ 貴様は幻か? 言葉が通じるのか?

 

なぜこんなところにお独りで?

蛇を傷つけたが殺してない やがて傷が癒え元どおりになれば我々はその毒牙にさらされる

薬のない傷はほっておいて 元には戻れない さあもっと元気を出して 怖い顔はやめて お客様の前で今夜は明るく振る舞って

バンクォーも息子のフリーアンスも未だ生きている

もうやめて

あの魔女たちが初めて俺を王と呼んだ時バンクォーが問うと魔女たちは彼が代々の王の父になると予言した 俺の頭上には実を結ばぬ王冠をかぶせこの手にはいずれもぎ取られる王笏を握らせたのだ 俺の子は後を継がぬ となれば俺はバンクォーのために手を汚し慈悲深いダンカンを殺したことになる バンクォーの子孫のために俺は心に毒を盛ったのか 奴らを王にする? バンクォーの子孫を王にするためだったのか

どうなさる気?

お前は知らぬ方がよい 後で褒めてくれ 俺の心はサソリで一杯だ 驚いているのか? 心配するな 悪事に手をつけたら後は悪に委ねることだ 眠りをもたらす夜よ 情けを知る昼の目を包め そして血塗られたその見えない手であいつの命の証文を引き裂いてくれ

 

お前たちの持つ不思議な魔力で答えてくれ 答えろ! 答えろ 命令する

獅子の勇気を持ち傲然と構えているがいい 周囲の声は気にするな

マクベスは滅びない

バーナムの森がダンシネーンの丘を攻めてくるまでは

マクダフに用心せよ ファイフの領主に それだけだ

マクダフに用心を ファイフの領主に

残忍になれ 大胆に心を決めろ 人間の力を恐れるな 女が産んだ人間にマクベスを倒す力はない

 

奴が逃げた?

はい 陛下

実行の伴わぬ計画は無駄だ これからは心が思いつくことは手に行わせるぞ

地獄は薄暗い 元には戻れません

兵を出せ 恐れを口にする者は縛り首だ マクダフの城に不意打ちをかけファイフを奪う 奴の妻子と血のつながる者を刃にかけてやる 口先ではないぞ 必ずやってやる

 

人殺し! 人殺し! 人殺し! 私は何もしてない! 何もしてないのよ! 人殺し! 殺さないで! 子供たちは助けて!

 

何という暴君! 名を口にするだけで舌が爛れる そいつをかつては清廉な男と信じていたのだわ!

 

まだここに汚点が… この忌まわしい汚点! 早く消えて! 地獄は薄暗い あなたどうなさったの? 武人が怯えるの? 真実が暴かれようと権力を持つ者は恐れなどしない でもあんな老人にあれほどの血があろうとは… ファイフの領主には妻が… 今どこに? 見て この手の汚れは落ちるの? もうやめてあなた もうやめて ビクビクなさらないで まだ血の臭いがする アラビア中の香水をふりかけても消えないわ 手を洗って夜着に着替えて下さい 何て蒼ざめたお顔… ベッドへ ベッドへ 誰かが門を叩いてる さあ 早く! さあそのお手を私に… もう元には戻れない ベッドへ ベッドへ ベッドへ ベッドへ ベッドへ ベッドへ

 

森がダンシネーンに向かってくる! 警鐘を鳴らせ 鎧を! 鎧を着け死を迎える

暴君め! 面を見せろ!

逃げるも留まるもかなわぬ この世の秩序など闇に崩れ去るがいい 風よ吹きまくれ 破滅よ 鎧を着けて死んでやる 杭に縛りつけられ逃げ道を断たれたも同然 熊のように闇雲に戦うのみ 俺が恐れるのは女の腹から産まれなかった奴だ 愚かなローマ人のように自刃などはせぬぞ 目の前の敵をぶった斬る!

地獄の犬め 来い

 

『マクベス』