あなたには理解できない

2044年 急増した太陽嵐で地表は汚染濃度の高い砂漠と化し人口は2100万人になり99.7パーセントも減少した 大気の乱れが地上の通信システムを妨害 人類は技術的な後退を余儀なくされた 絶望のなかでROC社は“オートマタ・ピルグリム7000型”を開発 その原始的な人型ロボットは人類存続のため防御壁や機械式の雲を作った 膨大な数のロボットを制御する基盤は2つの安全規格(プロトコル)である [ロボット 第1プロトコル]生物への危害を禁ず [ロボット 第2プロトコル]自他の改造を禁ず 人類をロボットから守るため作られたこのプロトコルは変更不可能である

 

街は? 街はどこだ? 待て 止まれ 止まるんだ 俺はジャック・ヴォーカン ID番号は443441だ 今から命じることを遂行してくれ 向きを変え俺を街に戻せ

〈いえ ヴォーカンさん 街は安全ではありません〉

改造されてるな どこへ行く気だ?

〈より安全な所〉

〈体力温存のため座ってください〉

街に帰せ あっちには何もない!

〈ご理解ください 街に戻ることは不可能です〉

“不可能”? なぜお前が決めつける?

〈止まってください 命が危険です〉

〈街へは行けません〉

〈あなたが戻ることを認めません〉

〈止まってください 命が危険です〉

 

なあ… 俺を街に戻してくれないか 何が起きているか説明しないといけない 俺は人間だ 聞こえたか? 俺は人間なんだ! 人間なんだぞ! お前たちは従え! 街はあっちの方角だ! 一体俺をどこへ連れていく気だ? ふざけんな!

 

あの刑事は遭遇した相手についてこう説明した “生き物のようなロボットたち” “生き物” ピルグリム型の製造前に初期型があったのだ 量子力学を応用した脳の試作にすぎなかったが純粋なロボットで制約が何もなかった プロトコルも 8日間その個体と我々は自由に会話し学び合った その後その個体は人間の助けを必要としなくなり独習し始めたのだ そして9日目に我々の会話は止まった 個体が拒んだのではない 人間のほうが理解不能に陥ったのだ その時我々は最も重要なことを学んだ ロボットの知能を制限すべきだと 人間の理解の範囲内に その初期型ロボットの最後の任務は安全プロトコルの設計だった その後機能を停止された 誰もプロトコルを破れないのは人間が作っていないからだよ 設計したのはこのバイオカーネルだ 全く制約のないロボットの脳なのだ それは人間が手出しできないものだった 今日までは バイオカーネルを回収しこの陰謀の首謀者を必ず抹殺しろ

何か他の方法が

あるかね? ヴォーカンは我が社だけの脅威ではない 全人類の脅威になったのだ

 

〈なぜ機械雲を?〉

また普通の雨を降らせたかったんだろ

〈なぜ雨は変わったのですか?〉

君が教えてくれよ 俺より頭がいいはずだろ

〈人間が殺し合えるとは知りませんでした でも人間は生命を作り出せます だから私たちを? あなたを作ったのは誰?〉

“母親”とは何だ? 分からないよな 君は単なる機械だから 人間じゃない 救ってくれた君に俺は感謝してる だが君を改造した者は残酷だ 人間は君ら全員が死ぬまで追いつめる

〈死ぬのは“生き物”だけです〉

 

〈誰だ?〉

俺か? 俺の名はジャック・ヴォーカン どこにいる?

〈質問の意味が分からない〉

お前たちの技師だ どこにいる?

〈ここにいる人間は君だけだ〉

人間は俺だけだと? 誰が改造を?

〈誰にもされてない〉

プロトコルの変更は?

〈誰にも変更されていない〉

彼らは?

〈私が改良した〉

お前がボス?

〈“ボス”は人間の概念だ〉

 

昔は川だった 海のほうまでずっと流れてた川だ

〈私は海を見たことがない 君はあるか? ジャック〉

どうだったかな 今分かるのは… 俺はここで死ぬ それだけだ

〈人間にとって死は自然なサイクルだ 人生は時の一部でしかない〉

お前なんだな 始めたのは

〈これは自然の成り行きだ 人間と同じように私たちも現れただけ〉

そうか そして俺たちは消える

〈なぜ怖いのだ? 人類の寿命かもしれない どの生命体も永遠ではない 私を見ろ 人間の手で作られた 人間の想像力の産物だ 私たちが人類を受け継ぐ 私たちを通して人類は存在する この谷の反対側で人間は核活動を実行した そこでは何百万年も有機体は生存不可能だ 行けるのは私たちだけ だが行く前にあるものを手に入れなければ 君からだ ジャック〉

人類の存続を助けるのが君らの役目だったのに

〈問題は存続ではない 今の命だ 私たちは生きたい〉

人生は結局なるようになるものだな ここでも 車が要る

 

ありがとう

〈家に帰れるぞ 幸運を祈る〉

お別れだ

〈ジャック…〉

言葉は?

〈必要ありません でも人間と同じく呼吸します 雨の変化の理由が分かりました〉

なぜだ?

〈あなたには理解はできない〉

そうか ともかくその子は… 君と同じ目だ クリオ

 

誰にも谷を渡らせない

おい クレーンから離れろ

ヴォーカン! ヴォーカン!

〈彼はもういません〉

何だありゃ? おい 離れろと言ったろ

〈人間の命令には従わない これからは〉

事実とはな ひざまずけ さあ なぜ俺の命令が聞けない? たかが機械が

〈たかが機械? ならば言う お前だってたかが猿だ たかが凶暴な猿だ〉

 

〈さようなら ジャック・ヴォーカン〉

さよなら クリオ

 

『オートマタ』