荒野

古来“ハウハ”は豊穣と幸福の地と言われ多くの者がその地を目指した そして世の常であるように時を経て伝説は膨れ上がっていった だが確かなことが1つ その楽園にたどり着いた者はいない


パパ 私は犬を飼えないの?

飼えるとも 国に帰ったらな どんな犬がいい?

そばを離れない犬

なるほど そんな犬か そうか 難しい注文だ きっと見つかる 私の可愛い娘よ


飲むか? 蒸留酒だ いつ荒野の中にある砦へ向かう?

2週間後だ 機は熟した 俺が隊長だ 馬車を率いて行く インゲボルグは特別な馬車に 快適な旅ができる 残して行くのか?

いや 娘も連れて行く 例の噂は本当なのか? スルアガだよ

彼は優秀な将校だ 勇敢だぞ だが頭が少し…

皆口が軽すぎる

彼を知ってるのか? 話したことは?

何度もある 一緒に遠征した仲だ 共に戦った 勇敢な男だ 冷静で頼りになる 法にも忠実だ

スルアガの砦へ行くんだよな 彼はいるのか?

近くの大きな砦にいたらしい だが作戦が始まり自分の砦に戻ったはずだ きっといる 百戦錬磨の男だ 荒野では姿を消して瞬時に移動する よく訓練された軍人でもある 会えば気に入る

彼は独りか?

“独り”とは?

妻はいないのか? 子供は? 君と同じで独り者か?

辺境の荒野では人は皆独りだ 他人とのつながりは弱さを生む そうだろ おかしな生き方だ 国を築き家族を作るのが目的なのに だが人は大志のために進む “ココナツ頭”はそこが違う 奴らは家を持たず盗みや殺しを繰り返す

なぜ“ココナツ頭”と呼ぶんだ? “ココナツ”は種族の名前ではないだろ

奴らは全員“ココナツ頭”だ

だが正式な名前ではない

名前が重要か?

名前も知らずに相手を理解できるか?

抹殺するのだから理解しなくていい 皆殺しにする

そうか ピッタルーガ中尉 少々問題が発生してる 私の部下と君の兵の間に溝が生まれているようだ 技師と話をしてくれるか?

分かった

助かる

ああ 明日陸軍大臣が舞踏会を開く 盛大な会だ 娘さんを誘いたい

私の娘を?

ビリタが介添えをする

いや 娘は… 行かせられない 私の娘だ

ディネセン大尉 馬を贈らせてほしい 娘さんに 馬に乗る者は王だ 乗馬を教えよう

娘はもう馬に乗れる 好都合だ 俺の牧場に招待しよう

どうも

見事な馬がいる

招待の件は考えておこう

栗毛の馬だ とても美しい

ありがとう だがまず先に仕事を片づけよう


インゲボルグ インゲ! ピッタルーガ中尉を知ってるか?

チビのお付きがいる人ね

そうだ

どこへ行くにも2人一緒でどっちが主人か分からない

ああ 確かにそうだな

それで…

この前そのお付きが砦で待ってた 戻ったらいたの

何だと?

中尉は中にいた パパを待ってたって

本当か? そう奴が?

正装してた

バカな それはウソだ 奴の狙いは… 狙いはお前だ よく聞け 奴は若い女に目がない ブタ野郎だ 絶対に近づくな いいな

近づくと思う?

それは… 確かにあり得ない 悪かった だが… かわいそうに ここは異国だ 早くデンマークへ

荒野は好き 満たされるから

何だと?

大尉! こちらへ

分かった 今行く インゲボルグ! 待ってろ クソッ ビリタ


コルト 来い 靴を脱げ お嬢さんは戻ってください

もらおう

どうも

やあ

ありがとう コルト マテ茶は? 冷たい茶だぞ

パパ

今はダメだ インゲボルグ

見つけたの

ああ そうか お前はテントに戻ってろ 早く行け

報告したことを我々に話せ 直接聞きたい 早く! 情報があるだろ

大佐について?

そうだ

スルアガは賊を率いてる なぜか女の格好をして もう報告済みだ

実際見たのか?

“ココナツ頭”と親しい地元民に聞いた

よく聞け スルアガ大佐は荒野で兵士を救出に行き行方不明になった その後2つの町に立ち寄ったらしい 元気な姿で だがそこで完全に消息が途絶えた 彼は砦に戻っておらず死体も発見されてない “ココナツ頭”を内偵したが収穫はなかった 奴らがかくまってるのか 忽然と消えたのか 2度捜索隊を出したが行方はつかめなかった ただスルアガの馬が森の近くで見つかった 元気に草を食べてたそうだ 鞍をつけてな まるで主人が近くにいるかのように だがいない 不思議だ あれほどの男が荒野で道に迷うとは 彼を買いかぶってた 荒野は全てをのみ込む しばらくして噂が流れ始めた 今お前がした話だ スルアガ大佐が女の格好で賊を率いてると言う さらに妙なことがある スルアガの愛犬が…

ヘルセイです

愛犬のヘルセイが飼い主と同じ日にいなくなった そこでお前に尋ねたい なぜスルアガが軍を捨てる? なぜ女の格好をする? お前たちの頭は空っぽか?

彼を捜せ 荒野に行きスルアガの物を持ち帰れ 手に取れる物がいい ツテがあるだろ

何か物を?

そうだ 何か形がある物だ 分かるか? 例えばスルアガが着てる女物の服とかな

ビリタ 物資は来ますか?

今輸送中だ ピッタルーガ いつもこうだ 不可能なことばかり求めてくる

さっぱりだ

もう半年も輸送中だ

見苦しいぞ ボヤくな では…

食事にするか?

後でいい


噂を知ってたんですね

まあな 耳にしてた だがあくまで噂だ 荒野では瞬く間に広まる スルアガの噂は信じ難いものが多かった 私が思うに彼は気まぐれな男だった 同感だろ

いいえ

やめろ 中尉 落ち着け 怒っても仕方ないだろ 心を静めて楽しく過ごそう 陸軍大臣の舞踏会に行くのか? 趣向を凝らした会だ

みんな行きますよ では明日

おやすみ ピッタルーガ


インゲ インゲボルグ インゲボルグ どこにいる? インゲ ミルキバー 娘がいないんだ 娘の姿が見えない

大尉 待て 俺が捜しに行く 任せてくれ

気持ちはありがたいが私の娘だ

ディネセン大尉 行くのは無謀だ 彼女は美人だがコルトに逃げる勇気はない

ピッタルーガ お前は行くな ここにいるんだ 舞踏会に出ねばならない


痛くない?

ただのアザだ

星座に見える 流れ星かも

君のお母さんは?

前にもこうしてた気がする 一緒にいた気が

国はどこ? あの人が父親?


娘は? 娘はどこにいる? どこだ?

スルアガ…

娘は? どこにいるんだ! この野郎! 地獄に落ちろ インゲボルグ インゲボルグ インゲ インゲボルグ インゲ どこだ? インゲボルグ 聞こえるか? そんな… バカな インゲ


こんばんは

どうも

水を頂けませんか?

水はみんなのものよ そこを上ると泉があるわ ほら そこよ

誰かいます? この家の人を捜してる

見つけたわ かけて

ここに1人で?

ええ 犬はいる 泉もある 楽にして どうぞ食べて 水はおいしかった?

とても

私の夫があの泉を発見したの 夫は蛇にかまれて死んだ 蛇は好き? 私は蛇を責めようとは思わない

蛇はあまり好きじゃない

許して 普段犬が話し相手なの 人と話すのは変な感じ あなたは人?

そうだと思う

どこへ行くの?

分からない 娘を捜してる 金髪の娘を見たんだね この辺で

どんな姿?

金髪だ とても若い 娘は14歳だった いや 15歳だ

そうじゃなく母親の方よ

あなたの母親?

娘さんの母親よ

なぜ?

ずっと知りたかった

背が高くて美しかった 耐え難いほどに 気難しい面も 夜に咲く食虫植物のようだった 全エネルギーを注いで狙った虫を捕まえる 幸せだったろう お前を生んだ後姿を消した

娘を捨てる母親は珍しい 今度はその娘も?

ああ 娘も消えてしまったようだ

どこから逃げたの?

どこでもない 娘に家はない 私にも 旅から旅への生活だ

あなた以外に家族は?

いない 家族は私だけだ

家族は消え去る運命にある 長い時と共に 荒野にのまれて姿を消す それでいいの

娘を捜さないと

また気が向いたら訪ねてきて 私はここにいる


人は皆それぞれ違う 少年のことを思い出した 日が暮れた後その子を見たのだ それは普通の日だった 普段と変わらない退屈な日 犬が彼を連れてきた 犬は友達を欲しがる 私の中の少女が犬の夢を見る 野生の動物と野生の男 夢の中では血が崖から海へ注ぐ でも少女は大人になり荒野で暮らす くだらないことと決別して 人生を動かし前進させるものは何か

分からない

人生を動かし前進させるものは何か


起きたか

ヘンリックは?

見てないな ホッケーの試合に行くと言ってた この子は良くなった 軟膏を塗って抗生物質をやったんだ 効いたようだ

こんなの初めて 今までうちの犬はかかったことない

急性湿疹だ

急性湿疹?

何かに過敏に反応した その子が

タバコの煙とか?

理解できないことがあって激しく体をかいたんだ イライラして自分を傷つけてしまった

理解できないこと?

なぜお前が長い間留守にしたのか

でも戻った 今は家に

犬は人が思ってるより賢い 先まで考える

散歩に


『約束の地』