森の中は戦場だ これは実際の出来事ではなく普遍的な戦争の話である 従ってここで闘う兵士たちも我々の想像の産物だ この森で起きていることはいずれも史実ではない しかしどんな世界であろうと恐怖と不信と死は普遍なのだ この兵士たちは我々と共通の言語を話すが彼らの祖国は心の中にしか存在しない

俺たちを捜してる?
味方の飛行機だ
気づかない 墜落した機体は?
残骸が燃えてなきゃ見えないさ
俺たちを見つけても助けには来られない
ここは10キロも敵地に入り込んでるからな
たいした距離じゃない
そうですかね 10キロの間に何千もの敵兵が俺たちを狙ってきますよ
心配ならもう少し声を落とせ
心配はしてません
どうなるんです中尉 墜落したのを見た敵が俺たちを捜してるかも
まず武器を入手しなければ これでは不足だ ライフルを持ち出せず残念だ 方法を考えよう 現在の状況を正確に把握し頭を使えば脱出できる これが前線だ 墜落直前の位置からすると我々は今この辺にいる 味方がここで我々はここ この東に川があるはずだ 前線を通って味方の陣地へ流れている 現状で手に入る物を使い川を利用して脱出する
川を下るということですか?
そうだ
でもどうやって? 俺とフレッチャーは泳げません
いかだを使う 夜間にな他の方法では無理だろう 徒歩での脱出など自殺行為だから問題外だ 川を下れば数時間で全員自陣に戻れる わたしの計算によると…
中尉の計算ですか 計算の結果がこのザマでしょう
代案がなければ川へ向かおう 獣にも注意しろ
足が疲れた
早く! 見つかるぞ
とにかく川へ
1人でもできる
敵兵なんて…
ここは危険だ
この責任は…
もっと注意していれば…
腹が減った
誰だって怖いんだ
空腹でもう限界だ
枝を踏む音が頭に響く
ひと休みしたい
鳥がケガを
俺は逃げないぞ
木の枝に何かが
急ぐんだ!
もう年だからな
森に飲み込まれる
死にたくない
とにかく歩くんだ

我々は皆迷いながら人生を送っている 本当の自分は何者か居場所はどこかと… 人は孤独ではない? 大昔氷河期の頃はそうだったかもしれない 今は氷河が溶けて我々は皆孤島に独りだ 世界は孤島ばかりになった

最悪の状況だな 昨日の犬と代わってもらえるなら何でもやるよ
人間は窮地に陥るといつも犬に嫉妬するらしい 確かに見通しは明るくないが… いかだの様子を見に行こう
敵が待ち伏せしてるかもしれません
賭けだよ 危険なのは昨日も今日も同じだ 偵察して安全を確認する
それから? いかだの周辺に敵がいなければ?
夜まで待つ 満月でないことを祈ろう 不安なら歌を歌ってもいい
どうした子猫ちゃん 敵は人食い人種だから猫は食われないさ
やめてくれ
マック 森の中でも文明人らしくしろ
ごもっともですがこんな所に長くいたら文明なんて言ってられませんよ

今でも自分の立場に不安を覚える 怯えた兵士たちを指揮し殺戮を行っているのが自分だと認めたくない 現場を離れ命令だけ下す自分にも嫌気が 見動きが取れん 何かに捕らわれて… 私は人の墓を作っている
閣下に乾杯
時々地図を見ていると… 疑問に思うことがある 自分の墓はどこにあるのかとね ここか… ここか またはここか

戻るでしょうか?
分からん 自分が戻れた実感もない 皆自分の領域から離れ過ぎた 他者が見えなくなり自分に戻れなくなった それでもいいが…
私もです ある意味よかった 急に自由になって… 以前の欲望がなくなった 他に何も望めないからいいんです でも一方で欲望を取り戻せたらと…
つらいのか
そういうわけじゃ… やっぱり俺には耐えられない
誰だってそうだ 全ては幻覚だ まだ死にたくない者が見る幻さ

『恐怖と欲望』