“相違”や“不寛容”

今の状態は まるで 僕自身の 一部が 死んだのと同じ 僕はどうしても 泣くことができない 頭の中から 抜け落ちてしまった “悲しみ”という概念が… 今残された者が 君のいない世界でできることは 君の代わりを見つけること ちくしょう

小川の流れに投げ込んだ石が無数の波紋を残すように 星の馬が連なる月の回転木馬のように 土星の輪やカーニバルの風船や時計の針が残す円い軌跡のように 太陽を追うヒマワリの地球一周のように あなたの名が私の心の風車を回す 子供が手に持つ毛糸の一巻きのように 風の琴に舞う古い歌の詞のように 渦巻く雪のように あるいはカモメがノルウェーの森や波の上を旋回するように 時計の針が残す円い軌跡のように 太陽を追うヒマワリの地球一周のように あなたの名が私の心の風車を回す あの日泉のほとりで誓った言葉 けれど夏は過ぎ小鳥は巣から落ち 砂の上の私たちの足跡は消えた 私は独りテーブルをコツコツと指で打つ 雨の下で泣くタンバリンのように 忘れ去られ死にゆく歌のように 青さを失った空の下 秋の木の葉に ここにいないあなたの髪の色を想う 小川の流れに投げ込んだ石が無数の波紋を残すように 四季の風の中 あなたはその名で私の心のすべての風車を回す

来ると分かってた 確信してた 会ったことはないが 黙ってろよ 母に何も言うな 余計な事実を知らせる必要はない どうでもいい話だ 明日の葬儀で立派な弔辞を述べろ 母が喜ぶし参列者も喜ぶ 感動の場面だ 済んだらここを発て お前も弟もみんなの記憶から消える

“今晩旅行に発つんだ”だと? “2人でアジャクシオへ” “どちら様?” 1年前電話でお前の声を聞いた 現れると直感した 災いの種になると これから一緒にウチに帰る 失態の埋め合わせをしろ “サラ”の話を 弟の恋人だ 母はそう信じてる サラは愛煙家でパスタが好物だ 償いをしてみせろ ケリをつけるまで帰さないぞ
僕は消えるはずでは?

座って 母さん
気分は? トム
鱒が胃にもたれたのさ
弔辞聞きたかった
すみません ちゃんと準備できてなくて
残念だったわ ひどい女 なぜ彼女は来ないの
トムに電話が
誰から?
サラだよ
車にいる時電話が
何と?
こう言ってた “私自身の一部が死んだのと同じ この喪失感を表す言葉が見つからない” 彼女はこうも言ってた “あなたは価値のない人間よ 役立たず 彼を死から救えなかった 泣いてもムダ” それから… “ご家族と会いたかった”と でも彼が2人の世界を優先しすぎて家族や友達と会う機会がなかった 初めての真剣な恋だったそうです
そこで切れた
それから彼女はこう言いました “自分が憎い 償いをしたい” そこで切れた
ここに来て自分で言うべきだった トムにあの子の服を貸して教えてあげて
何を?
搾乳のやり方

さっきは感心した 上出来だ
あんたが強制を
違う 牛の話だ 動物の扱いがうまいな
搾乳機ってハイテクだ
だろ レーザー付きのもある 導入したら楽だろう
教会であんたが追い払った男は誰? 誰もあんたに声をかけない訳は? 弟が死んだのに
世間の連中に興味はない 向こうも俺に構わない 上出来だったぞ
僕は動物が好きだから
サラのことだ 電話の会話 弟に言った 母をごまかすのに女の写真をよこせと それでサラの写真を 同僚らしい
サラ・チボー?
なに?
アシスタントのサラのこと? 大切に財布の中に?
そうさ 弟の写真はそれしかない 最近の写真は 彼女が美人で母は喜んでる
愛する母親にウソを? あんたの世界のルールは知らないがもうたくさんだ アガットにすべて告げて家に帰る

息が 苦しい
俺の世界についてとやかく言うな 一度始めたらゲームを続けろ

トマ・ポドウスキーさん
大丈夫か?
ああ 大丈夫
1週間は毎日殺菌してください 殺菌剤小さじ2を半リットルの水に溶かす 後は軟膏と抗生物質を出します 説明は薬剤師が ロンシャン家とは?
親戚です
名字はロンシャン=ポドウスキー?
遠縁です 葬儀のために来ました
お悔やみを
どうも
深いつきあいが?
深めつつある
それは結構 では無事にモントリオールへお帰りを
どうも

30歳で母と同居してるのは母の幸せのためだ 立派な農場 整った外見 俺はハンサムだろ? ここにいろ
分かった

グロいと言ったろ 飛び散ってたな 大丈夫か? やってやる
悪い… ごめん もういい 牛の出産は初めてだから驚いただけだ
子牛の名はくそビッチ お前と同じアバズレだ

お前の場合精液はムダだな 役立たずだ
牛くさい
香水を?
少しだけ
結婚式かい?
もっと締めろ もっと強く
いつやめるかお前が決めろ
同じ匂いだ 彼の匂い 声も同じだ あの心惑わす声…

これは?
初めての成績表 初めての時計 町で買った これは… ノートね きっと絵や文章が
なぜここに? 奴が持って出たかと
置いていった 私の部屋に
読んだ?
いいえ でも読めば何か分かるかも トム ノートを開いて サラのために読んで 彼女にも関係がある
面白くないよ 客もいるのに いい考えじゃない
そう思う?
思います
堅信式のネクタイ 髪の毛 16歳で家を出た時髪が長かったわね とてもかわいかった その後短い髪で帰省を サラの物よ 今はすべてあなたの物 手に取らないの? 恋人なのにおかしい なぜ平気な顔を? なぜ墓に駆けつけないの? 花も持ってこない なぜトムは葬儀で話さなかったの? なぜ息子は帰省しなくなったの? なぜ連絡が途絶えたの? 事故って何? 誰といたの? いつどこで何があったの? 25歳で死ぬなんておかしい おかしい おかしい
よせ

どうも
注文は? 金髪君
ビール
生? ボトル?
生を グラスで
3ドル
釣りはいい
フランスから?
いや モントリオール
見ない顔だと思った なぜここに?
友人が死んだ
お悔やみを
葬儀の後手伝ってる ロンシャン家の農場を
1人で飲みに?
そうだ
フランシスは店に出入り禁止だ
理由は?
何の
出入り禁止
知ってるだろ
知らない 僕はよそ者だ
面白い話じゃない
構わない
ロンシャンの奥さんのお客なんだろ 陰口は言いたくない
どうでもいい ごめん 知りたいんだ
9年前ここで事件が よく覚えてる 店の30周年を祝う晩だった 客は歌ったり踊ったり大騒ぎしてた フランシスと弟もいた 兄弟で踊り始めた 華麗なステップで目立ってた 女たちが喜んでた ともかく フランシスの弟が…
ギヨーム
そうだ 彼が友達と… 同じ年頃の若者と踊り始めた 白いジーンズに緑のタンクトップの フランシスはここへ来てビールを頼んだ ギヨームの相手の男もこっちへやって来た 2つ離れた席に座った 男が何か言い騒ぎが起きた 以上だ
何を言ったんだ?
そんなこと覚えてるもんか
服装は覚えてるのに?
しつこいな 男は言った “あんたの弟について微妙な話が” フランシスは飛びかかり両手を口に入れてここを裂いた
裂いた?
ここをね こっちはノドまで 耳からノドまで
それから?
料金分は話したろ
でもその… 若い男は?
この村から姿を消した 西のほうで見たとか目撃情報はある 目立つ傷跡だからな 俺は見てない 店にいるからね 吹雪の日に電話しに出たくらいだ そんな訳でフランシスは出入り禁止だ 分かったか?
ありがとう

トム トム どこにいる? どこだ? 悪かった 謝るよ 行くな もう傷つけない 俺はどうなる 見捨てないでくれ お前が必要なんだ ちくしょう よくもこんなマネを 俺はお前から逃げたりしない 俺はいい人間になる トム ちくしょう 見つけるからな 聞こえるぞ トム? くそっ

戦火に焼かれたことのある町へ向かう 辱められたことのある場所へ行く 失意を味わったことのある人々に会いに行く アメリカにはもううんざりだ 僕が新聞記事をでっちあげてもいい 僕が童謡をでっちあげてもいい どちらも真実を告げはしないのだから アメリカよ お前にはうんざりだ 僕は心安らぐ場所へ行く 独りにはならない アメリカよ 僕には歩むべき人生がある 生きるべき人生がある 愛したがゆえに地獄に落ちると思うか? 自分のしたことはすべて良いことだと? 主イエスの体を血まみれにしたあげくに アメリカにはもううんざりだ 僕は真実を知る必要がある 僕はもう戻らないかも いや そのほうがいい お前は世界中に愛され それを利用したんだ 僕は戦火に焼かれたことのある町へ向かう アメリカよ お前にはうんざりだ

ゲイがどうやって嘘のつき方を習得するか その点だけにとらわれたくない 僕の映画のテーマは別のことなんだ
田舎の人々にトムはショックを受けた 都会で広告業に携わる彼は恋人の葬式で田舎へ行き2人の関係が秘密だったと知る カナダ人監督の見事なスリラーは葬儀での沈黙が招く不安と官能を描く
表現したかったのは母と息子の関係より母親というものの姿だったんだ 披露と孤独と喪失感で息子も家族も見えない母親だ トムは最後まで行こうとする 固く閉ざされた心に入り込むんだ 平穏を求めてね トム同様にフランシスも孤独な人生を送ってきて他人との関係を求めている 付き合い方は知らないがトムに魅力を感じるんだ テーマは同性愛より深いものだと思う 触れ合う人もなく壊れかけた男のもとに突然誰かが現れる 愛され求められていると感じて支え合うような関係が生まれる 彼らはお互いを必要としている 2人とも孤独だが1人は以前からでもう1人は最近孤独を知った 乗り越えられそうにない死に向き合いトムは救いを求めている そこで出会うのがかなり野蛮なフランシスだ だが男らしくもあり魅力的でトムは彼が仕掛けた危険で暴力的なゲームに誘われる この攻撃的なゲームにトムは魅了され受け入れる つまり彼ら2人の関係は… ストックホルム症候群なんだ 映画の作り手としては先見の明を持ち良い影響を与えることができなければ悲劇だよね 芸術家とは何だろうか 芸術家は影響力を持つ政治家のようなものだ どんなジャンルの作品でも社会的責任がある 僕の映画は最初から一貫して“相違”や“不寛容”を描いてる 成功と言えるのは観客が楽しみつつ何か考えたときだ 僕の映画に影響されてゲイを賛美する人はいない もしいたら変化を与えられたことになるね 議論や会話へと導き疑問を浮き彫りにし頭の固い人に何かを気づかせること それを願うよ

『トム・アット・ザ・ファーム』