測量技師

何もしなかったのはあなたが来なかったからだ 諦められたのかと… お見えになったところで本当のところを申し上げましょうか 測量技師は無用です
採用されたのですが
まったくもって無用です 土地の境界なら明快そのもので登記もしっかりして持ち主の変動も少ない 測量技師など要りません
これは驚きました 間違いだといいが…
残念ながら間違いではない
長旅の果てが門前払いですか
私の力では何とも… この間違いが生じた経緯ならお話しよう
経緯?
ずっと昔に命令が出た どこかの課が測量技師を依頼した 当然あなたのことではありません すっかり忘れていたぐらい昔の話ですから ミッツィー 戸棚から命令書を探してくれ 当時の書類だけはまだありますのでね うんと下の方だろう ここにあるのはごく一部でしてね 大半は納屋にしまってあります 紛失した書類も多い 納屋にもずいぶんある 見つかりそうか? “測量技師”と書いて青い線が引いてある
暗過ぎるわ
妻は有能な女でしてね しかしこれだけのものを処理するのは無理だ 戸棚は未処理の書類だらけです 病気をすると手に負えん
一緒に探しましょうか
秘密など何もありませんが書類をお見せするとなると… そこまではちょっと… 話の途中でしたね
外はとても寒いんです
誰です?
助手です 寒いと言うがここでは邪魔だ
どうぞ中へ 知った顔だ
私には邪魔です
一緒に“測量技師”と書かれた書類を探してくれ 彼らが邪魔なのですか? ご自分の助手が?
彼らは押しかけ助手です
指示があったのでしょう
無考えな指示と言わざるを得ませんね
無考えなどありえない
では私の招聘は?
考えた上でのことでしょう ただ諸般の事情で混乱が生じた 書類が証明してくれます
見つかればね
無理だと? ミッツィー 急いでくれ 書類がなくても説明ならできる 私たちは件の命令書に返答しました “測量技師は不要”とね この返答書が命令を出した課に届かず誤って別の課に届いてしまった しかも届いたのは表書きだけだった そこで“書類の中身を知らせろ”と言ってきた すでに当初の命令が出てからずいぶんと時間が経って私たちの記憶も曖昧になっていた “測量技師の件は存じません とにかく不要です”とだけ答えた 当然先方の課は納得せず延々とやり取りが続いた “なぜ急に不要になったのか 言い出したのはそちらでしょう” こちらはそう言ってやったが考えてみたら課が違う 当初の命令書を要求されたがとっくに紛失していた 役人が紳士荘に押しかけて連日公式喚問が行われ大半が私と同意見でした だがごく数人だけが不正や秘密工作があるのではないかと考えて“測量技師は不要である”という当然の事実に疑義を申し立てたのです 特にブルンスウィックというバカ者が声の大きさだけで一部に評価された ラーゼマンという男の義弟ですが
なめし革職人の? 見かけましたよ 黒髪の中年で髭がある
そう その男です
細君も見ました
ありえますな
美人だがやや顔色が悪く病身のようだ 城の出身だとか? まさかご存じない?
管轄外です 重要なのは事務系だ とにかく大声の彼のせいで議題が村会にかけられ大多数の反対で測量技師不要と決まった ずっと昔の話です 彼は諦めなかったがその間に管理部の方が気づいた ずっと以前に当初の課がこの件を村会に照会したが未回答に終わっている そこで再照会が行われ一件落着となった ところがあなたが現れて今になってまたまた万事が頭から蒸し返されそうだ そんな事態は何としてでも避けたい ご了承いただけますな
自分の身は守ります
どうやってですか? 私をすっかり信用してください
私の採用を問題にされているが 採用は決定済みです クラムが…
これは貴重な手紙ですな クラムの署名入りだ 代筆ではない これはどうも… 私には何とも… 何をしている? 見つからないのか? 残念ですが事情はご説明した通りです 書類があっても同じです いずれは見つかりますよ 教師の所ででも 彼の所も書類の山だ おい ミッツィー この手紙を見てくれ 妻も私と同意見です これは公式な文書ではなく単なる私信です ここには一言もあなたを採用するとは書いてない 公共のサービスに触れてあなたの直属の上司はこの私だから相談しろと書いてある
シュワルツァーをご存じで?
いや お前はどうだい? 妻も知らない 二人とも知りません
それは妙だ 城の下級執事の息子です
下級執事の息子を全員知っているわけがない
そうですか とにかく到着した夜にその男とひと悶着ありましてね 彼がフリッツという下級執事に電話して私の採用事実が確認されたのです どう思われます?
簡単な話だ 城との間に特定の回線はありません 取り次ぎをする交換局がないのです ここから城に電話すると下部局の電話すべてが鳴る 繋がっていればですが 実際は外されている電話が多い 時に退屈した官吏がほんの気晴らしで夕方や夜間などに受話器を戻し電話に応えることがある 無論この場合の返答は冗談なのです おわかりかな 公務を司る私からして電話など持っていません
すると全ては曖昧模糊としていて私はお払い箱か
誰があなたをお払い箱にするですと? 事態が不明瞭だからこそいっそう丁重な対処が必要です 引きとめはしませんが
私の方には留まる理由がある 苦労して故郷を後にしようやくここまで来た 金も底を尽き故郷で職を得るのも今となっては難しい ここには婚約者もいる
フリーダですね 彼女なら一緒に行きますよ その他の点については城に報告します 決定が下ったらまたご連絡します
いや お情けではなく権利が欲しい
ミッツィー 足が痛む 新しい包帯に取り替えよう
では失礼します
そうね 風がひどいわ

『カフカの「城」』