団体ツアー

神父になれよ
いいね
指導者に向いてる
“テロリスト”だ
回心すればいい
簡単に回心する者もいるな
罪を悔いてるから
本当に?
そうとも
処刑直前なら悔いる
神はそんな人間も天国へ導いてくれるのか?
天国へ団体ツアーさ
神聖の冒とくだ
冒とく? 回心すればいいんだ

君のエネルギーの源は?
昔 野山を走った
なるほど タフなはずだ クロスカントリーをやってたとはな
あの競技が大好きだったんだ いつまでも走っていたかった 俺たちは都会のガキで家畜にさえビビってた
家畜に?
怖くて乳を搾ることもできなかった この次は田舎で生まれたい あの自然や鳥たちはすばらしい
今度はリラックスすることも学べ
そうだな でも学べるか分からない 3月からハンストだ それを伝えたかった
確かに聞いたよ 家族には?
伝えた
直接話は?
次の面会の時に
家族は喜ぶか?
どう思う?
息子もいる 前回のハンストとどこが違う
この前はやり方がマズかった 7人が同時に始め同時に体力を失った そのせいでイギリスに切り崩されたんだ 今回は2週間ごとに1人ずつストに入る 志願者は75人いるんだ
そんなにか
声明は今日出す
今回は君も死ぬということか?
そのとおり
抗議のためのストだ 死ぬためのストではないだろ
敵に決意の固さを見せてやる
志願者が75人もいれば5人死んでも余裕だな
言い方が悪い
20人目で敵が屈したとしても君はもう死んでるんだぞ 死ぬ者のことを考えたか? 家族のことはもちろんだがな 私たちを見下しているイギリスと戦うんだぞ あいつらは活動家の死など気にもかけない
分かってる
交渉でなく敵の降伏が狙いか?
ああ
負ければ犬死にになる 大勢の同志が出て 仲間の士気も下がる
一時的にはそうなるかもしれないが…
なるさ
より固い意志を持った世代が現れる
甘いな
戦争中だぞ あんたは外国人か?
私も北アイルランドに住んでる
協力しろ
前回は抗議のハンストだから協力した 死ぬためのストで降伏が狙いなら話は別だ 破滅的だぞ
4年間暴力と屈辱の日々が続いてる 皆の力で人権を取り戻す
対話でな
今までの抗議をムダにして囚人服を着るのか そんなことより同志のために命を捧げたい やつらと交渉する選択肢は全くないのか?
ないさ
それじゃ君は単に自殺を考えているのか?
俺のやることが自殺か議論したいのか? 俺にとってはイギリスに殺されるのと同じさ お互いカトリックだ でも俺は敵に家を焼かれた人間さ だからあんたとは考え方が違ってくる
だろうな
俺の信念は単純だからこそ強い
死ぬ前の言葉は? イギリスの強引さを訴えても効果はないぞ 何世紀もの間我々を苦しめてきたからな
憎しみか?
殉死のつもりか?
違う
本当に?
過去の活動家たちを賛美してるそうだな 自分の名も歴史書に?
この俺が?
図星だろ それは違う
君たち活動家は自由を求めてきたんだ だが君はもはや人生の意義を見失ってる こんな所に4年もいると正常な心も失う 今 武装闘争は曲がり角に来てる 君らIRAも動きを止めた 長い闘争の果てにまだ展望は開けてない “殺す”と決めたら殺さないことを怖がる 生きることや平和も怖がる この地に希望などない しかも刑務所では民族主義の闘争が現実感を失った君らの手に委ねられてる 気は確かか? あの糞尿の房で君らは大勢が死ぬ計画を立てた “ボビー・サンズの銅像を建てろ”? 冗談よせ 君の仲間も元は一市民だ 君もそうだったんだぞ 故郷の町でな 君はその町で生きるべきだ
何だか頭が混乱してきた
ストは失敗するぞ
決行する
中止だ 中止しろ
ムリだ
今の君は正常じゃない
今さら中止はムリだ
せいぜい命を粗末にしろ
神の罰が?
自殺だけじゃなくその愚かさも神は罰する
神は高慢なあんたも罰するぞ 苦しい人生を生きてる俺を宗教者気取りで見てる キリストの生き方は筋が通ってた だがあんたのはまやかしだ 革命家こそ生きる目標を与える存在さ
バカげた話だ
それはどうかな
息子にも話せ
黙れ
話さんのか?
子供への情で攻撃か さすがだ
本音を言え
言う必要が?
正直に言ってみろ
自由こそ人生のすべてだ あんたの無礼な言葉は許す 今は自分の信念を純粋に保つべき時なんだ アイルランドの統一は正しい 理解を超えてるだろうけど自分を尊敬して統一の信念を強く持ち続ければ希望は見えてくる 希望のために命を懸けるのは正しいことだ
私に話してみて反応を見たかったんだな? 自分の考えに十分な自信がなくて
そうさ ただの人間だからな
自信を持てたか?
ああ さすがは魂を救う神父だ グイドール地方へは?
行った
12の時だ クロカンの大会でな 小さなバスに乗って行った 俺にとっては国際大会みたいなものだった 出身地のプライドが懸かってたからだ プロテスタントも2人車内に 教派を越えた大会だ いいイベントだと思ったから連中も参加したんだと思った バスは国境を越えアイルランドへ みんな歌を歌ってたが俺は景色を見ていた エゴール山を望む山道を通ったぞ きれいだった あの地方の景色は最高だ
そうだな
とにかくグイドールに着いた そこには200人ほどの少年がいて準備をしていた 主催者は修道会で少年たちを必死にまとめていた 俺は仲間と軽く走ってみた 周りは一面大麦畑だ 畑は谷へ下り川や森があった 谷はコース外だったから皆でこっそり下りた まさに冒険気分だった 谷にコーク県の少年も アクセントが違うから言葉が通じなくてな でも俺たちをバカにしてるのは感じ取れた 俺たちは連中と走りながら川魚を探すことにしたんだ 下流へ行った 深さは15センチぐらい 小魚ばかりだったけど連中の1人が叫んだ 生後4~5日の子馬が川に横たわってた やせていて毛は灰色 岩の角で体を切って毛に血が付いていた 後ろ脚も片方折れてたんだ それでも息はしてた 議論が始まった この子馬を一体どうすべきかという議論だ “殺して楽に”という意見が でもみんな殺すのを怖がってたんだ 子馬は苦痛にあえいでいた だけど話は空回り 神父に見つかった 俺たちと子馬を見て“動くな”と言った “ヤバい 怒られる”とみんな直感したんだ だから俺がとっさに子馬の頭を水に沈めた 最初少し暴れたけど溺れて死んだ 
神父が河原に来て俺の髪をつかんで森を歩き“罰を与える”と言った 俺は子馬を苦痛から救い皆のために罰も受けた 罰を免れた皆から尊敬されたぞ 俺は損得を考えない 結果がどうなるかも 行動あるのみと考えているんだ

『ハンガー 静かなる抵抗』